大吉
2009-03-04(Wed)
はい。昨日の続きです。
狩り装束の男たちが、慌てたようにたくさん駆け寄ってくる。
そうして、僕とそのひととの間に割ってはいった。
それは、そのひとを守るためのようだった。
僕の目の前に、男が三人立ちはだかって、残りの七人はそのひとを取り囲む。
残る五人が、イノシシを片付け、縄をかける。
イノシシは運ばれてゆき、僕も、彼らに引っ立てられるようにして、彼らが張った天幕へと連れて行かれた
んだ。
僕の家がすっぽり入るくらいの天幕の中は、贅を凝らしたものだった。
見たことのないきれいな物がたくさん、ただ狩りをするためだけに張られている野営用の丈夫な布の中に、
据え置かれている。
地面に敷かれた敷物は、まぁ、まだ寒いし、濡れた地面にじかに座りたくないと思えば当然だろうけど。で
も、椅子を使ってるし。わざわざ持ってくるのが凄い。それにしても、やけに肌触りのいい絨毯を何枚も重ね
ているのは、無駄というか、もったいない気がしてならなかった。
まぁ、そのおかげで、後ろ手に手首をひとまとめにされてその場に押さえつけられてても、僕も、ごつごつ
とした感触に顔を擦り付けることがなくてすむんだけど。
そんなことをぼんやりと思いながら、でも、絨毯の感触を楽しむ余裕なんかあるはずがない。
身分の高いひとたちが猟をしている場所にまぎれこんでしまったのだということが、わかったからだ。
彼らの楽しみを台無しにしてしまった罰を、受けるんだ。
どうなるんだろう。
なにをされるんだろう。
全身の震えは、再開していた。
脂汗はひっきりなしで、寒い。
いったい、今日はどうなっているんだろう。
思いすらしない成り行きに、僕の心臓は慌てっぱなしだ。
イノシシも恐ろしかったけど、この男たちも同じくらいに、もしかしたらイノシシなんかよりも、もっとず
っと怖いのかもしれない。
僕の目の前には、あの時つまらなさそうに僕に声をかけた男のひとが、椅子に腰を下ろして、やっぱり、僕
を見下ろしている。
父さんよりは若いだろう。
だとすると、三十台くらいなんだろうか。
男らしく整った顔立ちは、硬く引き締まって、少しの甘さもない。眉間に刻まれてる深い皺と、への字に結
ばれたくちびるとが、男からそんなものを総て奪い去っているみたいに思えた。黒く形の良い眉の下の鋭いま
なざしが、僕を怯えさせる。
「なぜ、あんな場所にいた」
声は、男の右後ろに立つ男のものだった。
男はただ、黙ったまま僕を見ている。相変わらず、興味はないのだが、視線が向くのが僕のところだから仕
方がないとでもいった雰囲気で、椅子の肘掛に頬杖をついている。
訊かれたことに僕は、必死に答えた。何度もつっかえたけど、わかってもらえないとどうなるかわからない
、そんな怖気があったんだ。
「………………いいだろう」
領主殿からの通達があったとは思うがな。
不満そうな口調だったけど、どうにか信じてもらえたらしい。
ホッとした僕の耳に、
「それは、何だ」
やはり右後ろの男だった。
椅子に座る男は、もう、僕に興味がないことを隠すようすも見えない。運ばれてきた何杯めかの杯を干して
、戻していた。
男が指差したのは、僕の首からぶら下がっている皮袋だった。
―――お守りだからね。開けちゃ駄目だよ。
母さんに言われたことを、僕はずっと守ってきた。
―――開けると、お前の身に災いが降りかかるからね。
滅多にすることはないけれど、母さんの占いは、よく当たるのだ。
だから、皮紐は何度か変えたけど、それでも、袋の中を覗いたことはない。
「毒ではあるまいな」
再び男たちが色めきたつ。
あんまりな言いがかりに、僕はもう、恥も外聞もなく、泣きだしてしまいそうだった。
首を振る僕から、それをもぎ取るのは、男たちにとってはあまりに容易いことだったろう。
僕はどうあがいてもまだ十三の非力なガキでしかないのだから。
からだを鍛えることよりも、家の中で木切れに細工をすることのほうが好きなんだ。
僕の夢は、父さんのような細工師になることなんだ。
男が僕の目の前で、さかしまにして皮袋を振った。
しゃらりとかすかな音をたてて、なにかが流れ星の尾のように光った。
そうして絨毯の上に転がり落ちたものを、僕は、呆然と見ていた。
「私が」
皮袋を取り上げた男の声よりも、椅子に腰掛けている男のほうが、すばやかった。
男が拾い上げたものは、繊細な金の鎖が通された、金の指輪だった。もしかしたら純金なのかもしれない。
細かな彫が施された深い色調の金の輪の真ん中に、大人の親指の爪ほどもありそうな深紅の石が嵌っている。
それは、僕なんかじゃ一生かけても持てないような、信じられないくらい立派な指輪だったんだ。
男の黒い瞳が、信じられないくらい大きく見開かれていた。
ざわめきが、やまる。
つまらなさそうだった男の瞳に、光が宿った。
射るように、僕を見る。
頭の天辺から足指の先までを、まるで解剖でもするかのように、じっとりと眺めてくる。そうして、僕と、指輪とを、何度も、見比べるのだ。
永遠と思えるほどの時間に思えた。
もちろん、実際はそんなに長いはずはないんだけど。
静まり返った周囲も、指輪の意味を知っているんだろうか?
疑問が不安へと変わってゆくのに充分な、沈黙だった。
*************** 今日はここまで清書。
DVDを見てました。
“THE EYE”、『ゴッドファーザー』『バイバイリバティ危機一髪』『ワルサーP38』の4本です。流石に一日では見れませんでしたよ。うん。
左から。
○ 何年か前の香港映画のアメリカバージョン。ストーリーに変化はなしと思われます。香港バージョンも見てます。香港版の湿度がある、ある種の泥臭さとはやはり無縁ですね。
魔女と責められたことから自殺を選んだ女性の角膜をもらったバイオリニストの女性が、幽霊を見るようになった恐怖から、自分のドナーを探して問題の解決をしようとする話です。
巻き込まれる担当のお医者さんが、医師の資格を剥奪される覚悟でドナーの情報を渡すのですが。そこまでする必要があるのか。つい、悩みます。いや、たしかに、人情としてはそうしたいでしょうが。だって、ばれたら一生棒に振るんですよ。半狂乱とはいえ、主人公のごり押しが凄いなぁ。香港バージョンでも似たようなことを思ったかなぁ? その辺あやふやですけど。
○ マイケル・コルネオーレが、キアヌ・リーブスとうっちゃんを足して2で割ったタイプに見えて仕方がなかった。魚里の目が変ですか?
内容は有名どころなので、パス。ともあれ、マイケルの外見が気になって気になって。う~っむ。名作なのに、どこを見てるんだか。
マフィアの生活、華やかなんだけど、どこかこう、地に足が着いてますね。セレブとは言い切れない。
何かというと、食堂に集まるからかなぁ。肌着にサスペンダーっていう姿がどうも、常日頃のおしゃれ度とのギャップがありすぎるのかもしれない。
あと、ドンの奥さんが、堅実な印象だからかな。なんか、よくも悪くも田舎のおかみさんっぽい雰囲気で、ドンの奥方って魚里がイメージするタイプじゃなかったからかな。
トム・ヘイゲンと、次男のフレド――魚里の期待するタイプじゃなかったです。残念。
ソニーの単細胞振りが、不思議とツボでした。うん。結構好きかも。意外だな。
○ ルパン2本、両方ともラストしみじみする話でした。それだけって云うのもなんですけどね。
狩り装束の男たちが、慌てたようにたくさん駆け寄ってくる。
そうして、僕とそのひととの間に割ってはいった。
それは、そのひとを守るためのようだった。
僕の目の前に、男が三人立ちはだかって、残りの七人はそのひとを取り囲む。
残る五人が、イノシシを片付け、縄をかける。
イノシシは運ばれてゆき、僕も、彼らに引っ立てられるようにして、彼らが張った天幕へと連れて行かれた
んだ。
僕の家がすっぽり入るくらいの天幕の中は、贅を凝らしたものだった。
見たことのないきれいな物がたくさん、ただ狩りをするためだけに張られている野営用の丈夫な布の中に、
据え置かれている。
地面に敷かれた敷物は、まぁ、まだ寒いし、濡れた地面にじかに座りたくないと思えば当然だろうけど。で
も、椅子を使ってるし。わざわざ持ってくるのが凄い。それにしても、やけに肌触りのいい絨毯を何枚も重ね
ているのは、無駄というか、もったいない気がしてならなかった。
まぁ、そのおかげで、後ろ手に手首をひとまとめにされてその場に押さえつけられてても、僕も、ごつごつ
とした感触に顔を擦り付けることがなくてすむんだけど。
そんなことをぼんやりと思いながら、でも、絨毯の感触を楽しむ余裕なんかあるはずがない。
身分の高いひとたちが猟をしている場所にまぎれこんでしまったのだということが、わかったからだ。
彼らの楽しみを台無しにしてしまった罰を、受けるんだ。
どうなるんだろう。
なにをされるんだろう。
全身の震えは、再開していた。
脂汗はひっきりなしで、寒い。
いったい、今日はどうなっているんだろう。
思いすらしない成り行きに、僕の心臓は慌てっぱなしだ。
イノシシも恐ろしかったけど、この男たちも同じくらいに、もしかしたらイノシシなんかよりも、もっとず
っと怖いのかもしれない。
僕の目の前には、あの時つまらなさそうに僕に声をかけた男のひとが、椅子に腰を下ろして、やっぱり、僕
を見下ろしている。
父さんよりは若いだろう。
だとすると、三十台くらいなんだろうか。
男らしく整った顔立ちは、硬く引き締まって、少しの甘さもない。眉間に刻まれてる深い皺と、への字に結
ばれたくちびるとが、男からそんなものを総て奪い去っているみたいに思えた。黒く形の良い眉の下の鋭いま
なざしが、僕を怯えさせる。
「なぜ、あんな場所にいた」
声は、男の右後ろに立つ男のものだった。
男はただ、黙ったまま僕を見ている。相変わらず、興味はないのだが、視線が向くのが僕のところだから仕
方がないとでもいった雰囲気で、椅子の肘掛に頬杖をついている。
訊かれたことに僕は、必死に答えた。何度もつっかえたけど、わかってもらえないとどうなるかわからない
、そんな怖気があったんだ。
「………………いいだろう」
領主殿からの通達があったとは思うがな。
不満そうな口調だったけど、どうにか信じてもらえたらしい。
ホッとした僕の耳に、
「それは、何だ」
やはり右後ろの男だった。
椅子に座る男は、もう、僕に興味がないことを隠すようすも見えない。運ばれてきた何杯めかの杯を干して
、戻していた。
男が指差したのは、僕の首からぶら下がっている皮袋だった。
―――お守りだからね。開けちゃ駄目だよ。
母さんに言われたことを、僕はずっと守ってきた。
―――開けると、お前の身に災いが降りかかるからね。
滅多にすることはないけれど、母さんの占いは、よく当たるのだ。
だから、皮紐は何度か変えたけど、それでも、袋の中を覗いたことはない。
「毒ではあるまいな」
再び男たちが色めきたつ。
あんまりな言いがかりに、僕はもう、恥も外聞もなく、泣きだしてしまいそうだった。
首を振る僕から、それをもぎ取るのは、男たちにとってはあまりに容易いことだったろう。
僕はどうあがいてもまだ十三の非力なガキでしかないのだから。
からだを鍛えることよりも、家の中で木切れに細工をすることのほうが好きなんだ。
僕の夢は、父さんのような細工師になることなんだ。
男が僕の目の前で、さかしまにして皮袋を振った。
しゃらりとかすかな音をたてて、なにかが流れ星の尾のように光った。
そうして絨毯の上に転がり落ちたものを、僕は、呆然と見ていた。
「私が」
皮袋を取り上げた男の声よりも、椅子に腰掛けている男のほうが、すばやかった。
男が拾い上げたものは、繊細な金の鎖が通された、金の指輪だった。もしかしたら純金なのかもしれない。
細かな彫が施された深い色調の金の輪の真ん中に、大人の親指の爪ほどもありそうな深紅の石が嵌っている。
それは、僕なんかじゃ一生かけても持てないような、信じられないくらい立派な指輪だったんだ。
男の黒い瞳が、信じられないくらい大きく見開かれていた。
ざわめきが、やまる。
つまらなさそうだった男の瞳に、光が宿った。
射るように、僕を見る。
頭の天辺から足指の先までを、まるで解剖でもするかのように、じっとりと眺めてくる。そうして、僕と、指輪とを、何度も、見比べるのだ。
永遠と思えるほどの時間に思えた。
もちろん、実際はそんなに長いはずはないんだけど。
静まり返った周囲も、指輪の意味を知っているんだろうか?
疑問が不安へと変わってゆくのに充分な、沈黙だった。
*************** 今日はここまで清書。
DVDを見てました。
“THE EYE”、『ゴッドファーザー』『バイバイリバティ危機一髪』『ワルサーP38』の4本です。流石に一日では見れませんでしたよ。うん。
左から。
○ 何年か前の香港映画のアメリカバージョン。ストーリーに変化はなしと思われます。香港バージョンも見てます。香港版の湿度がある、ある種の泥臭さとはやはり無縁ですね。
魔女と責められたことから自殺を選んだ女性の角膜をもらったバイオリニストの女性が、幽霊を見るようになった恐怖から、自分のドナーを探して問題の解決をしようとする話です。
巻き込まれる担当のお医者さんが、医師の資格を剥奪される覚悟でドナーの情報を渡すのですが。そこまでする必要があるのか。つい、悩みます。いや、たしかに、人情としてはそうしたいでしょうが。だって、ばれたら一生棒に振るんですよ。半狂乱とはいえ、主人公のごり押しが凄いなぁ。香港バージョンでも似たようなことを思ったかなぁ? その辺あやふやですけど。
○ マイケル・コルネオーレが、キアヌ・リーブスとうっちゃんを足して2で割ったタイプに見えて仕方がなかった。魚里の目が変ですか?
内容は有名どころなので、パス。ともあれ、マイケルの外見が気になって気になって。う~っむ。名作なのに、どこを見てるんだか。
マフィアの生活、華やかなんだけど、どこかこう、地に足が着いてますね。セレブとは言い切れない。
何かというと、食堂に集まるからかなぁ。肌着にサスペンダーっていう姿がどうも、常日頃のおしゃれ度とのギャップがありすぎるのかもしれない。
あと、ドンの奥さんが、堅実な印象だからかな。なんか、よくも悪くも田舎のおかみさんっぽい雰囲気で、ドンの奥方って魚里がイメージするタイプじゃなかったからかな。
トム・ヘイゲンと、次男のフレド――魚里の期待するタイプじゃなかったです。残念。
ソニーの単細胞振りが、不思議とツボでした。うん。結構好きかも。意外だな。
○ ルパン2本、両方ともラストしみじみする話でした。それだけって云うのもなんですけどね。
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