末吉
2009-03-03(Tue)
え~前に書きかけてたシリアス物の話ですが、直して直して、こんな感じになってしまいました。
最近、一人称が書きやすいようです。でも、下手xx
とりあえず、これだけ清書できたんですね。まだまだです。
辺境の春は遅い。
名残の雪が虫干しの綿のようにあちこちに点在する野原で、僕はそのひとに出会った。
そのひとがこんな辺境に来るなんていうことはとても珍しいことで、多分、里のほうでは噂で持ちきりだったのかもしれない。
けど、僕ら家族は知らないことだった。
僕ら家族――父と母と兄の四人家族だ――は、入り組んだ国境近くの森の中に暮らしていて、人里にはあまり近づかなかった。
元々僕らは流れの民で、二年をかけてこの近辺の国々を廻っては金を稼ぐという生活をしていたらしい。
らしい――というのは、僕が物心つくころには僕ら家族は既にここで暮らしていたからで。僕が聞いたのは、からだを壊した父のために地に根を下ろした生活を決意した母が選んだのがこの地だったということだけだ。
僕らは、父のために静かな生活を送っていた。
無理をしなければ普通の生活ならできるものの、旅から旅への生活は父のからだには負担が大きすぎる。だから、父は元々得意としていた木彫りを生活の道に選んだ。父が作った品物を村や町で売るのは母の仕事だったから、僕と三つ年上の兄とはふたりして家のこまごました家事をこなしていた。
その日、僕は野原に芽を出しているだろう春の野草を摘みに出かけていた。
くせの強い匂いと噛んだ途端口いっぱいに広がる苦味が僕は苦手なんだけど、父と母の好物なんだ。沸騰する湯に塩を入れて軽く湯がいたそれを刻んだものを、潰した芋にまぜて味を調えたり、ソースに混ぜ込んだり、調理をするのは兄さんだ。
味を想像するだけで顔をしかめる僕を、ガキの味覚だな――と兄さんがからかうのが、春一番の恒例行事だったリする。
今日がその日なんだろうなぁ。
そんなことを思い描きながら、見つけた野草を摘もうとしゃがむ。
ああ、あっちにもあるな。
ここにもあるじゃん。
夢中になって摘んでた。
塩を揉んだら保存もきくし。僕は苦手だけど、結構重宝する食べ物なんだ。
背負ってた籠がいっぱいになって、僕は一息ついた。
腰と膝を伸ばそうとしたときだ。
なにかが、僕の膝裏にぶつかってきたんだ。
それが、モロ膝裏でさ。僕はその場で転んだんだ。
籠の中身は散らばるし、服は汚れるし。
いったいなんなんだ――――――って、顔とかについた泥を擦ってる僕の目の前でもがいているのは、矢を背中につきたてられた、イノシシだった。
転ばされるだけですんで良かった。ひずめで蹴られてたら大怪我か、下手したら命がなかったよななんて思えばこそ、この状況のやばさが身に染みてくる。
それは、僕にとっては、不運極まりないことだった。
猟犬の声が、遠く聞こえる。
逃げないと。
それは、間違いなく、条件反射だ。
手負いのイノシシなんて、危なすぎる。森や山で出会って一番怖いのは、盗賊は別として、クマ、オオカミ、イノシシだろう。その上手負いともなれば、言わずもがなだ。
その証拠に、僕を見ているイノシシの両目は、怒りで燃えるようだ。
折った膝で、起き上がろうと泥を掻いている。
イノシシの怒りが僕に向けられている。ただその場に立っていただけで。
イノシシは、矢で射られたことなどよりも、きっと、その痛みだけが腹立たしくてならないのだ。そうして、その怒りを誰かにぶちまけたくて、この場に居合わせた僕に白羽の矢がたったってことなんだろう。
幸運が二度もつづくとは思えなかった。
逃げよう。
覚悟を決めた。
けど。
心とからだは別物だった。
僕はその場に貼りついたみたいになって、動けなかったんだ。
どうも僕は、いざって時に弱い性質らしい。間抜けというか、へたれてるというか。十三にもなって自分でも情けないなぁと思うんだけど、生まれ持ったものなのだとしたら、どうしようもない。ほんとうに―――。
目の前でイノシシは怒っている。
僕に向けられている怒りが、痛いくらいだ。
イノシシに殺されるのは厭だなぁ。
馬鹿みたいに、そんな場合じゃないのに、そんなことを考えてた。
それでも、逃げたくてたまらないんだ。
背中が冷たい。
必死だったんだ。
どうにかして。
ようやく一歩後退できたけど、尻もちついたら、洒落にならない。
荒い息をつきながら立ち上がったイノシシが、迫ってくる。
たまらなくなって、目を閉じた。
イノシシの牙が、右腕をかすめる。イノシシが地面を蹴立てる凄まじい音と風圧とが、僕に襲い掛かる。
その時になって、やっとだ。
遠く聞こえていた猟犬の鳴き声が、興奮して荒い息が、僕の周囲に渦をなした。
それは、心強い盾だった。
涙でかすんでいる視界に、斑模様の犬が何頭もいて、イノシシを囲んでいる。けどイノシシは、犬を蹴散らしそうないきおいだ。
立たないと。
一難去ってまた一難って感じだ。
何でって。
腰が抜けたんだ。
焦ってた。
何度も踵で地面を蹴ったけど、どうやっても立ち上がれないんだ。
そうやってもがいてる僕の後ろから、
「なにをしている」
平坦な低い声が降ってきた。
艶光する黒い馬の背から、そのひとは僕を見下ろしている。
その黒い目が、つまらなさそうに、僕を見ていた。
最近、一人称が書きやすいようです。でも、下手xx
とりあえず、これだけ清書できたんですね。まだまだです。
辺境の春は遅い。
名残の雪が虫干しの綿のようにあちこちに点在する野原で、僕はそのひとに出会った。
そのひとがこんな辺境に来るなんていうことはとても珍しいことで、多分、里のほうでは噂で持ちきりだったのかもしれない。
けど、僕ら家族は知らないことだった。
僕ら家族――父と母と兄の四人家族だ――は、入り組んだ国境近くの森の中に暮らしていて、人里にはあまり近づかなかった。
元々僕らは流れの民で、二年をかけてこの近辺の国々を廻っては金を稼ぐという生活をしていたらしい。
らしい――というのは、僕が物心つくころには僕ら家族は既にここで暮らしていたからで。僕が聞いたのは、からだを壊した父のために地に根を下ろした生活を決意した母が選んだのがこの地だったということだけだ。
僕らは、父のために静かな生活を送っていた。
無理をしなければ普通の生活ならできるものの、旅から旅への生活は父のからだには負担が大きすぎる。だから、父は元々得意としていた木彫りを生活の道に選んだ。父が作った品物を村や町で売るのは母の仕事だったから、僕と三つ年上の兄とはふたりして家のこまごました家事をこなしていた。
その日、僕は野原に芽を出しているだろう春の野草を摘みに出かけていた。
くせの強い匂いと噛んだ途端口いっぱいに広がる苦味が僕は苦手なんだけど、父と母の好物なんだ。沸騰する湯に塩を入れて軽く湯がいたそれを刻んだものを、潰した芋にまぜて味を調えたり、ソースに混ぜ込んだり、調理をするのは兄さんだ。
味を想像するだけで顔をしかめる僕を、ガキの味覚だな――と兄さんがからかうのが、春一番の恒例行事だったリする。
今日がその日なんだろうなぁ。
そんなことを思い描きながら、見つけた野草を摘もうとしゃがむ。
ああ、あっちにもあるな。
ここにもあるじゃん。
夢中になって摘んでた。
塩を揉んだら保存もきくし。僕は苦手だけど、結構重宝する食べ物なんだ。
背負ってた籠がいっぱいになって、僕は一息ついた。
腰と膝を伸ばそうとしたときだ。
なにかが、僕の膝裏にぶつかってきたんだ。
それが、モロ膝裏でさ。僕はその場で転んだんだ。
籠の中身は散らばるし、服は汚れるし。
いったいなんなんだ――――――って、顔とかについた泥を擦ってる僕の目の前でもがいているのは、矢を背中につきたてられた、イノシシだった。
転ばされるだけですんで良かった。ひずめで蹴られてたら大怪我か、下手したら命がなかったよななんて思えばこそ、この状況のやばさが身に染みてくる。
それは、僕にとっては、不運極まりないことだった。
猟犬の声が、遠く聞こえる。
逃げないと。
それは、間違いなく、条件反射だ。
手負いのイノシシなんて、危なすぎる。森や山で出会って一番怖いのは、盗賊は別として、クマ、オオカミ、イノシシだろう。その上手負いともなれば、言わずもがなだ。
その証拠に、僕を見ているイノシシの両目は、怒りで燃えるようだ。
折った膝で、起き上がろうと泥を掻いている。
イノシシの怒りが僕に向けられている。ただその場に立っていただけで。
イノシシは、矢で射られたことなどよりも、きっと、その痛みだけが腹立たしくてならないのだ。そうして、その怒りを誰かにぶちまけたくて、この場に居合わせた僕に白羽の矢がたったってことなんだろう。
幸運が二度もつづくとは思えなかった。
逃げよう。
覚悟を決めた。
けど。
心とからだは別物だった。
僕はその場に貼りついたみたいになって、動けなかったんだ。
どうも僕は、いざって時に弱い性質らしい。間抜けというか、へたれてるというか。十三にもなって自分でも情けないなぁと思うんだけど、生まれ持ったものなのだとしたら、どうしようもない。ほんとうに―――。
目の前でイノシシは怒っている。
僕に向けられている怒りが、痛いくらいだ。
イノシシに殺されるのは厭だなぁ。
馬鹿みたいに、そんな場合じゃないのに、そんなことを考えてた。
それでも、逃げたくてたまらないんだ。
背中が冷たい。
必死だったんだ。
どうにかして。
ようやく一歩後退できたけど、尻もちついたら、洒落にならない。
荒い息をつきながら立ち上がったイノシシが、迫ってくる。
たまらなくなって、目を閉じた。
イノシシの牙が、右腕をかすめる。イノシシが地面を蹴立てる凄まじい音と風圧とが、僕に襲い掛かる。
その時になって、やっとだ。
遠く聞こえていた猟犬の鳴き声が、興奮して荒い息が、僕の周囲に渦をなした。
それは、心強い盾だった。
涙でかすんでいる視界に、斑模様の犬が何頭もいて、イノシシを囲んでいる。けどイノシシは、犬を蹴散らしそうないきおいだ。
立たないと。
一難去ってまた一難って感じだ。
何でって。
腰が抜けたんだ。
焦ってた。
何度も踵で地面を蹴ったけど、どうやっても立ち上がれないんだ。
そうやってもがいてる僕の後ろから、
「なにをしている」
平坦な低い声が降ってきた。
艶光する黒い馬の背から、そのひとは僕を見下ろしている。
その黒い目が、つまらなさそうに、僕を見ていた。
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