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悪魔と踊れ 1
 ともあれ、最初に日記。
 いえ、ね。最近言語中枢がやばい魚里です。書くほう書くほうと
もともと力入れてたせいなのか、単なる老化現象なのか、喋る方向がやばくなってきました。
 漢字検定で遊んでる場合じゃない――かもしれん。
 喋る場合に、ボキャブラリがめちゃくちゃ少なくなってる魚里です。
 この間なんか、係――って言葉が思い出せなくて、冷や汗ものでした。――――――やばすぎです。滑るどころか、思い出せんねんよxx

 さてさて、サイトの更新今度の休みこそと、先週の休みに書いてましたが。書きあがらなかったので、ブログにこっそりアップしときます。が、オリジナルになっております。――出来上がってからツーパターンに分けるかもしれませんが、未定ということで。中途ですが、少しでも楽しんでいただけると、嬉しいです。

 『悪魔と踊れ 1』

「ああああああ……………っ」

 悲鳴が広場にこだまする。

 まだ甲高い、子供のものだ。

 積み上げられた薪の上、太い杭に縛められた十台半ばほどの少年が、空を見上げて、泣き叫ぶ。

 短い栗色の髪が、上昇気流に煽られて、まるで、黒々とした炎のように、顔の周りで揺らいでいる。

 ぱちぱちと、音をたてる、薪からは、煙が立ち上り、そこここから、いまだ低い火の手が、趣味の悪いダンスを踊っていた。

 身をよじり、涙を流し、それでも、少年には、逃れるすべはない。

 全身のいたるところに、苛烈な拷問の痕跡が残されたからだは、おそらく、鎖に縛められることで、かろうじて、立つことができているのに違いない。

 潰された喉からは、押し出されるような悲鳴がでるばかり。流れる涙すら、痛みにつながり、ただ、本能的な恐怖に、捕らわれているだけなのに違いない。

 悪魔と契ったってさ。

 魔女だって。

 腰骨のところに、ドラゴンの羽の痣があったってよ。

 ひそひそと、恐ろしそうに、面白そうに、火刑に処される少年を見上げては、ささやきかわす群集に、慈悲の色は、深くない。

 なぜなら、少年が、流れの民のだったからだ。粗末な馬車に家財道具一式を積み各地を放浪し、祭があれば、その地で出し物をして日銭を稼ぐ。漂泊の民は、教会の教えから、遠いところに存在した。

 だから、そのひとりが魔女として断罪を受けるのに、容赦はいらない。他人ごとの、見世物感覚のほうが強い。

 つい数日前まで少年たちが町外れで見せていた見世物の一つであるかのように、人々は、固唾を呑んで、少年がじりじりと火で焙られるさまを眺めていた。







 少年の名前は、ラウルといった。

 栗色の髪に明るい琥珀色の眸の少年は、その象牙色の肌から、どこか異国の血を引いているのだろうと思われた。もっとも、それは、漂泊の民の特徴でもあったから、彼らの間にいる限り、それは、少しも、特別なことではなかった。ただし、ラウルの肌の色は彼らよりは明るく、肌の質は、彼らの誰よりも、肌理が細かかった。

「いいかい、ラウル。人前で服を脱ぐんじゃないよ」

 腰に手を当てて、ラウラが、諭す。

 スカーフで束ねた赤毛が、揺れる。

「わかってるって、姉さん」

「ジュールも、弟のことなんだから、気をつけるんだよ」

 黒い髪の少年が、

「ラウルに過保護過ぎだって」

と、苦笑をこぼした。

「わかったら、いっといで」

 ぱしんと二人の背中を叩いた。

 森の中の空き地で、彼らは、一夜を過ごすことにした。

 まだ日は高い。

 しかし、この日のうちにこの森を抜けられるかどうかは、心もとない。

「ラウラ、こっちをてつだっとくれ」

 母親の声に、ラウラは朗らかに答えた。

「なんでオレだけ。不公平だよな」

 シャツの袖をまくりながら、ラウルがぼやく。

「しかたないって。お前の背中になにがあるか、知ってっだろ」

「うん。けどさぁ、川遊びするくらいいいと思わないか?」

 こう暑いとさ。

 空を仰ぐと、針葉樹の細い葉の奥から、金の雨が降り注ぐ。

 雨のような日の光に、ラウルの栗色の髪が、金粉を帯びたように輝いた。
 
「ひとがいなけりゃな」

「けち」

 頬を膨らますラウルに、ジュールが笑う。

 少年たちの笑い声が、森の奥に明るくこだました。



 ささやかな馬車を背に石で囲った囲炉裏に火をつけ、鍋をかける。

 馬車のひさしにぶら下げていた野菜を数個切り刻んで、入れた。

 木のへらでかき回していると、背中にしょった赤ん坊が、泣きはじめる。

「はいはい。おっぱいだね。ちょっとお待ち」

「母さんごめん、鍋見ててくれる」

 赤ん坊を下ろして、ラウラは、ブラウスの前をくつろげた。







 嵐が近いことを、空が告げていた。

 司教はひとり、馬を走らせる。

 森の中での野宿など、とんでもない。

 従者が留めるのも聞かず、司教は、馬に鞭を当てる。

 僧服が、風にひるがえる。

 雷が、空を引き裂き、司教の耳を聾した。

 馬が後ろ足で立ち、もがくように空を掻く。

「うわっ」

 馬から振り落とされる。逃げる馬を追うことすらせず、ぬれねずみの司教は、とぼとぼと、風の中を歩きはじめた。

 どれくらい歩いたのか。

 目の前に、みごとな城館が、現われた。高い塔を従え、黒々とシルエットが空にそびえていた。

 オレンジの明かりが、城館に人が住むことを教える。

 司教は、扉にやっとのことでたどり着き、黒い鉄のノッカーを握り締めた。







 ろうそくの炎がかすかに照らすだけの質素な一室で、ひとりの女性が、ひざまずいて祈りをささげていた。

 その姿から、女性が、尼僧であることが見て取れる。

 一心に壁にかけられた十字架に向かい額づく女性は、背後に近づく影に気づくことはない。

 ただ、十字架の左右に据えられた一対の炎が、ゆらゆらと、はためいていた。







 黒と金と白の豪奢な廊下に、赤いマントがひるがえる。

 頭を垂れて突然現われた男に、礼をとるのは、大小さまざまな異形である。

 その中に、目を惹く端正な姿があった。

 漆黒の髪はつややかに白皙の面を引き立たせる。すっきりと冷ややかなまでの美貌の中、ひときわ目を惹くのは、金色のまなざしと、鮮やかな朱唇である。ゆったりと口角をもたげ、

「お帰りなさい父上」

と、腰を折る。

「ユージーンか」

 まだ少年らしさの残る第一王子に、よく似た金の目を細めて笑いかけるのは、魔王である。

 森羅万象、異形と謗られる者たちを統べ、守り、裁く。慈悲深く、気高い、そうして同時に冷酷の、王だった。

 ついと息子の細い頤を持ち上げ、

「遠からず、我が子がひとり増える。それを、お前に与えよう」

 ユージーンの金の眸が、珍しく驚愕に見開かれた。

「対となすもよし。喰らうもよし。いずれ、お前の役に立とう」

 周囲の異形が、ざわめく中、王は王たる笑いを響かせながら、廊下を奥へと消えていった。







 ひときわ大きな悲鳴の後に、頼りない赤子の鳴き声が聞こえだす。

 当惑に顔を見合わせるのは、いずれも、尼僧たち。

 赤子を産み事切れた尼僧は、彼女たちの誰よりも、気高く信仰心にあふれたものだった。

 その彼女が産み落とした男の赤子を見て、誰一人として、動くことができない。

 赤い肌も、栗色の髪も、握り締めた手すら、いとけないほどの存在に、しかし、その仕打ちができたのは、信仰心の故であったろう。

 腰骨の上、くぼんだ箇所に、灼熱に熱した鉄を押し当てる。

 赤子が、ひときわ激しく泣き出した。

 赤子の背に禍々しく刻みつけられたのは、紛うことない、魔女の烙印。――――ドラゴンの一対の翼だった。

「汚らわしいものを、尼僧院になど置いておけません」

 吐き捨てるように言ったのは、年かさの尼僧である。

「院長さま」

 尼僧たちが、頭を下げた。

「ではどうしろと」

「捨てるのです」

 院長の言葉は、神の次に絶対である。

 布にくるんだ赤子を、院長が、尼僧見習いに手渡した。

「いいですね。誰にも知られず、捨てるのですよ」

 尼僧院から赤子など、とんでもない醜聞である。――絶対にありえないというわけではなかったが、禁を犯し、神を裏切った尼僧には、それ相応の処罰が。そうして、堕胎もならず生まれた赤子は、ひそかに、尼僧院から出されるか、処理され、裏庭に埋められる。

 裏庭に埋めることすら厭ったのは、院長が、死んだ尼僧の信仰を信じていたからに他ならない。

 彼女が、神を裏切るはずがない。彼女は、俗世すら知らない、誰よりも清らかな、この尼僧院の申し子であったのだ。僧院の外にでたことすらない彼女が、どうして、子を孕めるだろう。また、この僧院は、外からの進入に鉄壁を誇っている。

 だから、この赤子は、ひとの子ではないのだと。

 ましてや、神の子などでは、決して。

 であれば、汚らわしい、悪魔に、かの尼僧が犯されたのに違いないのだと。

 だからこそ、そのようなものを、殺すことすら恐れたのだ。

 災厄が尼僧院に降りかかることを避けるため、院長は、心を、鬼にしたのだった。







 異形のものたちが住まう異界――魔界であれ、月も巡れば、太陽も昇る。

 ユージーンは星々を見上げ、気だるいからだをもてあましていた。

 おそらくは、成長期の終わりが来たのだ。

 最後の段階を駆け上るために、冬が訪れる。

 冬をすごさなければ、成人とはいえない。

 冬――それは、眠りの季節である。長い眠りの果てに目覚めた時、ユージーンは、大人として復活する。

 永い眠りのさなかに、いくたりかの王子王女が、命を落とした。目覚めることのなかった兄と姉。いまや、彼のほかに、純血の魔王の子はいない。

 その彼のために、王は、混血の子をもうけたのだ。

 ユージーンのためだけの。

 混血の子は、純血に比べて、生命力が、段違いに強い。それは、執着心が強いということなのだろう。常に倦怠をもてあます純血の魔物に比べて、他で劣っているからこその、執着なのかもしれない。それは、その血に、からだに、精神に、孕まれる。だからこそ、魔王は、父は、ユージーンに与えるのだ。

 守り――の存在を。

 肉を喰らい、その執着を身に着けるもよし。

 対となして、目に見えない守護を受けるもよし。

 父の愛情を確かに感じ取り、ユージーンは、掌を見つめた。

 青白く輝く月の光が、掌に、降り注ぐ。

 月光の鏡を覗き込めば、そこに、尼僧の姿があった。

 寝台がひとつあるきりの、狭い部屋の中、床に跪き、神に祈りをささげる姿からは、清冽なばかりの信仰が、あふれだしている。

 しかし、信仰とは反対に、その迫り出した腹に、違うことのない、魔王の血を感じ、ユージーンは、かすかに口角を引き上げた。
 清冽ではあれ、自分たちの信じる神のみを絶対として、以外は迫害する。その狂信を嘲笑うかのように、鮮やかな朱のくちびるが、月光の鏡に息を吹きかけた。







 朝もやの中、赤子の泣き声が、心もとなく耳に届く。

 川のほとりにしゃがみこんだ、まだ少女のような女性が、芦にかかって揺れる塊を抱き上げた。

 今にも死に絶えそうな弱々しい声。

「大丈夫。大丈夫だからね」

 優しくささやきかけながら、赤子の体温を奪う布を取り去った。

 水を拭い、腰骨の上に見つけた紛れもない刻印に、息を呑む。

「ああ。可哀相に………」

 いたいけな身に背負わされた魔女のしるしに、この赤子の一生が、決して晴れやかなものとはなりえないだろうことを、ラウラは、悲しんだ。







 戸惑い、笑い、泣き、怒る。照れたようすも、拗ねた顔も、ころころと変わる表情が、忙しなくも愛しい。

 古びたリュートを見よう見まねで爪弾いて、芦で作った横笛を吹く。ジュールの奏でる音楽に合わせて踊れば、そのステップに、観客が、一斉に沸いた。

 拍手とともに足元にばら撒かれるコイン。

 拾い集めるのは、小さなぷくぷくとした手。

 幼い妹を抱き上げて、ラウルはもう一度上流階級風のおじきをして見せた。

 客が去ってゆくのを見送り、

「やった!」

 ジュールと顔を見合わせ、手を高く合わせる。

「ごくろうさん」

 ラウラが、笑顔で、彼らを迎えた。

「ご飯、できてるよ」

 さっさとたべちまいなよ。

 言われて椀を取り上げて、

「あちっ」

 もう少しで、取り落としそうになった。

「まったく、そそっかしいなぁ」

 ジュールに小突かれて、へらりと笑う。

「ああ、その顔だけはよしなよ」

 母親にたしなめられる。

「わかってるけどさぁ」

 椀の中のスープに息を吹きかけながら、ラウルが答えた。

「馬鹿みたく見える」

「あっ、言ったな!」

 ジュールに掴みかかれば簡単にいなされて、

「力じゃオレにかなわないってば」

 ムッとばかりに、ラウルが膨れる。

「二つばっか上だからって」

「骨格が違うからなぁ」


 続く
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