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2024/02
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それは桜の降る中で 2
 花の匂いのまじる風が、さやさやと、通り過ぎる。

 一休みと、思い思いの場所に腰を落とした侍たちが、汗を拭き、水を飲む。

 少年は、差し出された水の注がれた器を手に、ぼんやりと、空を見上げた。

 そう。

 十年前。

 こんなふうに、自分は、なにかを、見ていたのだ。

 なにか、いや、誰か――かもしれない。胸が引き裂かれるような痛みとともに、少年は、思い出す。

 誰――だっただろう。

 そう。

 誰か―――――だ。

 花びらの降りしきるなかで、空を駆けてゆく、誰かを、自分は見送っていたのだ。

 とても、恋しい、とても、あたたかな、存在を。

 すこしずつ。

 少しずつ。

 心の奥底に硬く結ばれていた何かが、ほころびる花のように、ほどけてゆく。

「どうなさいました」

 そろそろ駕篭に――と、近寄ってきた侍が驚いたようすに、少年は、はじめて、自分が涙を流していることに気づいた。

 去ってゆく背中。

 その、とても恐ろしく、頼もしく、何よりも慕わしかった、背中が、春霞のなかに、とけてゆく。

 それを追いかけられない自分がもどかしく、そうして、呪わしかった。

 あの、十年前の、最後の記憶よりも、前の―――――――

 少年のくちびるが、声を、かたちづくる。

「なにかおっしゃられましたか」

 侍が首を傾げたその時、一陣の強風が、吹きぬけた。

 桜が身をよじり、花びらを撒き散らす。

 白くあたたかな、花の雨。

 降りしきる花びらが、視界を閉ざし、再び開いてゆく。

「遅かったな。おれ、待ちくたびれちまったよ」

 気配なく現れたその存在を、ひとと表現してよいのか。すらりと丈高く様子のよい青年が、いつの間にか、少年の背後に佇んでいた。

 侍たちは、動けない。

 その場で動くことを許されるのは、ただ、桜と、少年、それに、新たに現れた、その存在だけなのだというかのように。

 少年は、振り返る。

 振り返り、そうして、自分よりも高い位置にある、その、金の双眸を、見上げた。

「捨てられたのかと思った」

 その言葉に、金の瞳の主は、ほほえんだ。

「私が、君を、ですか」

 形良く白い手が、少年の頬を両側から、包み込む。

「用事だかなんだか知らないけど、人間に、十年は、長すぎるよ」

 少年の鳶色の瞳が、金色の瞳を見返す。

「気をつけましょう」

 次は、ないですけれどもね。

 青年の最後の言葉に、少年が、首をかしげた。

「君を、二度と手放したりはしませんよ」

 そのための十年だったのですから。




 またもや途中です。終われるのかな??

 きんだいちしょうねんのDVD届きました。思ったより高遠君率が高くて、うはうはな魚里です。でも、まだ、観てないですけどね。書き下ろしイラスト、いつきさんも佐木少年もいて、ちょこっとうれしいですね。
 
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