昇紘x浅野 里木の庭にて
2005-02-06(Sun)
いや、まぁ、パロディです。パロディ。
オレは、憮然としていた。
何だって、オレがこんなところにいなきゃならないんだ。
堂があって、なにやらひょろりとした木が、大切そうに、守られている。
その木を、里木(りぼく)といって、この世界のヤツラは、みんな、この木に生る卵から生まれるのだそうだ。
手に持ったものを、捨てたい衝動に駆られながら、オレは、ただ、地面を見ていた。
周囲のヤツラのひそひそ話が、厭でも耳に届いてくる。
こんな時、仙になっちまったことを、後悔する。
「郁也」
昇紘が、オレを振り返った。
途端、偶然居合わせることになったヤツラの声が、ぴたりとやまった。
まさか、こんなことまでさせられるとは、思いもしなかった。
昇紘が、手を、差し伸べてくる。
オレは、諦めに近い溜め息を吐いて、その手を、取った。
そうして、昇紘が選んだ木の枝に、何日もかかって刺繍をした細い飾り紐を結びつけたのだ。これのせいで、オレの指は、ぼろぼろだ。
刹那、ざわめきが、大きくなった。
オレだって、目を疑ったさ。
しかし、それは、間違いなく、きっちりと、枝に、結ばれたままだ。引っ張っても、びくりともしない。
夫婦―――と認められない二人が、どんなに子供を願って、枝に紐を結ぼうと、それは、決して結べない。それが、この、里木の不思議なのだそうだ。
まぁ、そんなことを目で見たものはいないそうだが、そういうことらしい。
「天意だな」
オレの顔を見下ろして、昇紘が、にんまりと笑った。
心から満足そうな表情のこいつを、見たのは、初めてのことだった。
選べ―――と、言われて、オレは、選んだ。
そう。
オレが、選んだんだ。
仙になれば、ことばに不自由しなくなると、聞いていた。ただ、オレにとって、仙になるということは、昇紘の、伴侶になるということだったんだ。
いいかげん、しんどかった。
オレも、多分、昇紘も、しんどかったんだろう。
牀榻に寝ついてたオレに、苦虫を噛み潰したみたいな顔をして、昇紘は、言ったのだ。
「死ぬか、それとも、仙になるかだ。選べ」
オレのからだは、そうとう弱っていたらしい。
仕方がない。突然、誘拐されて、思い出すことすら拒否するような、目に合わされたんだ。実際、その時の記憶は、オレからはすっぽり抜け落ちてる。聞いても、誰も、教えてはくれない。ただ、オレを助けてくれた時の、昇紘の、嘘も偽りもなにもない、素のままの顔だけが、印象に残っていた。
助かってよかったのだろう。けど、それでも、あのときのオレには、もう、気力も何もなかったんだ。
昇紘に助け出されたことを、嘆いたりしてたわけじゃない。
マジで、飯を食えなかったんだ。
多分、ストレスで、拒食症にかかってたんだろう。
孫医師に無理矢理飲まされる薬湯も、大半をもどしていた。その時の苦痛なんか、もう、思い出したくもない。
オレは、かなり、切羽詰ってたってことだ。
「修行もなんもしてないのに、オレが仙に? なれんの?」
そう皮肉っぽく言った。つもりだったが、どうも、かなり息も絶え絶えに近かったらしい。
「なれる」
昇紘の鋼色のまなざしが、真剣に、オレを見ていた。
「そうか。なら、いいや」
そう言うだけで、もう、精一杯だったのだ。
「私の伴侶になると、そういうことだぞ」
かまわない。
そう、心の底から思った。
あの、昇紘の顔を思い出せば、昇紘の伴侶になってもかまわない――と、思えたのだ。
だから、オレは、
「いいよ」
と、笑ってみせた。実際、笑えていたのかどうかは、なぞだが。
後になって、あの時の笑顔を見たいなんて囁かれて、オレは、赤面する羽目になったがな。
どういう手順で、オレが仙になれたのか、よくはわかっていない。昇紘も、説明する気はないらしい。まぁ、なんにでも、裏技が存在する、そういうことなのだろう。
で、まぁ、仙になるということは、病老死苦から解放されるってことだ。苦は、どうか、わかんねーけどな。結局、そういうわけで、オレは、死なずにすんだ。
代わりっちゃなんだけど、オレの体調がまぁ、どうにかこうにか、普通に戻ったのを見計らって、オレと昇紘との婚礼――が、執り行われたのだ。
今思い出しても、どっかの穴倉ん中に引きこもりたいくらい、はずかしい。
見世物になってたわけだからな。
しかも、オレは、結局、昇紘の、伴侶――つうことは、奥方、妻、に、なっちまったわけだ。
男の、オレが、だ。
祝い客が、オレを見る目の、興味本位なことといったらなかった。そりゃ、立場上とか、いろいろあるから、あからさまじゃないけどさ、やっぱり、そういうのって、わかっちまうもんだろ。
で、まぁ、色々聞こえてくるわけだ。
『主上も物好きな』とか、『果たして、天意は、いかがなものか』『天綱(てんこう)に、のっとっているのか』とか、いろいろだ。
ことばに不自由しなくなったってことは、色々聞きたくないものも耳に入ってくるってそういうことなんだなって、オレは、実感してた。
そんなこんなで、オレは、昇紘の、正妻として、ここにいるわけだ。
夫婦仲は、まぁ、明蘭の借金を肩代わりしてここにいた頃に比べれば、天と地ほどの差がある。
まぁ、あいかわらずへの字に口を結んだ、難しげな顔をしてはいるけど、雰囲気が、穏やかになったよな。夜――のほうも、前ほどは、苦痛じゃなくなった。詳しくは言わないがな。言えるかよ……。
なんつーか、思ったことは、釣った魚を甘やかしたくるよなって、ことだ。一言で言うなら、うっとうしい。ちょっとはひとりにしといてくれって、そう思うんだが、あまり強く出て、前の昇紘に戻られたら、こっちがたまんねーからな。我慢してる。そのうち、飽きるかもしんねーしな。
ある日、昇紘が、帰ってくるなり、オレに、どんな図が好きだと、訊くので、見せられた見本の中から、適当に、選んだ。
なら、それを、この布に刺繍するんだとか、命令しやがるんだ。
刺繍なんかしたことないって、そう返すと、なら、燦玉(さんぎょく)に教えてもらうといい。とかって、厭でもやらせるって、気迫満々なんだ。
仕方ないから、燦玉に教えてもらいながら、細い布に、針と糸で、わけのわかんない図を縫い取りした。
『いったい、これって、なんの呪いだ?』
何度も指を針で突いて痛い目に合いながら、オレは、訊いてみた。
ら、
『ややを授かるための儀式でございます』
と、真面目な顔をして言ってくれた。
『男のオレに、ガキが出来るわけないだろ』
『色々と、外野がうるそうございますからね。殿さまにおかれましても、無視できないのでございましょう』
『?』
首を傾げるオレに、
『天に唾する行動だと、言われておりますからね』
そこは、糸を替えなければ、と、燦玉が針山から、違う色の糸が通ってる針を差し出す。
『王も認められたお二人ですのに、なにを今更と、殿さまも思ってはおられましょうが、百聞は一見にしかずとも申します。そんなことはないと、証明するためにも、里木詣でをなされるおつもりなのですは』
そうして、オレは、この世界での子供ができる仕組みというのを知ったのだった。
16:54 2005/02/06―17:53 2005/02/06
なんか、ずっと頭にあった話なんですが。
まぁ、こんな感じでvv
オレは、憮然としていた。
何だって、オレがこんなところにいなきゃならないんだ。
堂があって、なにやらひょろりとした木が、大切そうに、守られている。
その木を、里木(りぼく)といって、この世界のヤツラは、みんな、この木に生る卵から生まれるのだそうだ。
手に持ったものを、捨てたい衝動に駆られながら、オレは、ただ、地面を見ていた。
周囲のヤツラのひそひそ話が、厭でも耳に届いてくる。
こんな時、仙になっちまったことを、後悔する。
「郁也」
昇紘が、オレを振り返った。
途端、偶然居合わせることになったヤツラの声が、ぴたりとやまった。
まさか、こんなことまでさせられるとは、思いもしなかった。
昇紘が、手を、差し伸べてくる。
オレは、諦めに近い溜め息を吐いて、その手を、取った。
そうして、昇紘が選んだ木の枝に、何日もかかって刺繍をした細い飾り紐を結びつけたのだ。これのせいで、オレの指は、ぼろぼろだ。
刹那、ざわめきが、大きくなった。
オレだって、目を疑ったさ。
しかし、それは、間違いなく、きっちりと、枝に、結ばれたままだ。引っ張っても、びくりともしない。
夫婦―――と認められない二人が、どんなに子供を願って、枝に紐を結ぼうと、それは、決して結べない。それが、この、里木の不思議なのだそうだ。
まぁ、そんなことを目で見たものはいないそうだが、そういうことらしい。
「天意だな」
オレの顔を見下ろして、昇紘が、にんまりと笑った。
心から満足そうな表情のこいつを、見たのは、初めてのことだった。
選べ―――と、言われて、オレは、選んだ。
そう。
オレが、選んだんだ。
仙になれば、ことばに不自由しなくなると、聞いていた。ただ、オレにとって、仙になるということは、昇紘の、伴侶になるということだったんだ。
いいかげん、しんどかった。
オレも、多分、昇紘も、しんどかったんだろう。
牀榻に寝ついてたオレに、苦虫を噛み潰したみたいな顔をして、昇紘は、言ったのだ。
「死ぬか、それとも、仙になるかだ。選べ」
オレのからだは、そうとう弱っていたらしい。
仕方がない。突然、誘拐されて、思い出すことすら拒否するような、目に合わされたんだ。実際、その時の記憶は、オレからはすっぽり抜け落ちてる。聞いても、誰も、教えてはくれない。ただ、オレを助けてくれた時の、昇紘の、嘘も偽りもなにもない、素のままの顔だけが、印象に残っていた。
助かってよかったのだろう。けど、それでも、あのときのオレには、もう、気力も何もなかったんだ。
昇紘に助け出されたことを、嘆いたりしてたわけじゃない。
マジで、飯を食えなかったんだ。
多分、ストレスで、拒食症にかかってたんだろう。
孫医師に無理矢理飲まされる薬湯も、大半をもどしていた。その時の苦痛なんか、もう、思い出したくもない。
オレは、かなり、切羽詰ってたってことだ。
「修行もなんもしてないのに、オレが仙に? なれんの?」
そう皮肉っぽく言った。つもりだったが、どうも、かなり息も絶え絶えに近かったらしい。
「なれる」
昇紘の鋼色のまなざしが、真剣に、オレを見ていた。
「そうか。なら、いいや」
そう言うだけで、もう、精一杯だったのだ。
「私の伴侶になると、そういうことだぞ」
かまわない。
そう、心の底から思った。
あの、昇紘の顔を思い出せば、昇紘の伴侶になってもかまわない――と、思えたのだ。
だから、オレは、
「いいよ」
と、笑ってみせた。実際、笑えていたのかどうかは、なぞだが。
後になって、あの時の笑顔を見たいなんて囁かれて、オレは、赤面する羽目になったがな。
どういう手順で、オレが仙になれたのか、よくはわかっていない。昇紘も、説明する気はないらしい。まぁ、なんにでも、裏技が存在する、そういうことなのだろう。
で、まぁ、仙になるということは、病老死苦から解放されるってことだ。苦は、どうか、わかんねーけどな。結局、そういうわけで、オレは、死なずにすんだ。
代わりっちゃなんだけど、オレの体調がまぁ、どうにかこうにか、普通に戻ったのを見計らって、オレと昇紘との婚礼――が、執り行われたのだ。
今思い出しても、どっかの穴倉ん中に引きこもりたいくらい、はずかしい。
見世物になってたわけだからな。
しかも、オレは、結局、昇紘の、伴侶――つうことは、奥方、妻、に、なっちまったわけだ。
男の、オレが、だ。
祝い客が、オレを見る目の、興味本位なことといったらなかった。そりゃ、立場上とか、いろいろあるから、あからさまじゃないけどさ、やっぱり、そういうのって、わかっちまうもんだろ。
で、まぁ、色々聞こえてくるわけだ。
『主上も物好きな』とか、『果たして、天意は、いかがなものか』『天綱(てんこう)に、のっとっているのか』とか、いろいろだ。
ことばに不自由しなくなったってことは、色々聞きたくないものも耳に入ってくるってそういうことなんだなって、オレは、実感してた。
そんなこんなで、オレは、昇紘の、正妻として、ここにいるわけだ。
夫婦仲は、まぁ、明蘭の借金を肩代わりしてここにいた頃に比べれば、天と地ほどの差がある。
まぁ、あいかわらずへの字に口を結んだ、難しげな顔をしてはいるけど、雰囲気が、穏やかになったよな。夜――のほうも、前ほどは、苦痛じゃなくなった。詳しくは言わないがな。言えるかよ……。
なんつーか、思ったことは、釣った魚を甘やかしたくるよなって、ことだ。一言で言うなら、うっとうしい。ちょっとはひとりにしといてくれって、そう思うんだが、あまり強く出て、前の昇紘に戻られたら、こっちがたまんねーからな。我慢してる。そのうち、飽きるかもしんねーしな。
ある日、昇紘が、帰ってくるなり、オレに、どんな図が好きだと、訊くので、見せられた見本の中から、適当に、選んだ。
なら、それを、この布に刺繍するんだとか、命令しやがるんだ。
刺繍なんかしたことないって、そう返すと、なら、燦玉(さんぎょく)に教えてもらうといい。とかって、厭でもやらせるって、気迫満々なんだ。
仕方ないから、燦玉に教えてもらいながら、細い布に、針と糸で、わけのわかんない図を縫い取りした。
『いったい、これって、なんの呪いだ?』
何度も指を針で突いて痛い目に合いながら、オレは、訊いてみた。
ら、
『ややを授かるための儀式でございます』
と、真面目な顔をして言ってくれた。
『男のオレに、ガキが出来るわけないだろ』
『色々と、外野がうるそうございますからね。殿さまにおかれましても、無視できないのでございましょう』
『?』
首を傾げるオレに、
『天に唾する行動だと、言われておりますからね』
そこは、糸を替えなければ、と、燦玉が針山から、違う色の糸が通ってる針を差し出す。
『王も認められたお二人ですのに、なにを今更と、殿さまも思ってはおられましょうが、百聞は一見にしかずとも申します。そんなことはないと、証明するためにも、里木詣でをなされるおつもりなのですは』
そうして、オレは、この世界での子供ができる仕組みというのを知ったのだった。
16:54 2005/02/06―17:53 2005/02/06
なんか、ずっと頭にあった話なんですが。
まぁ、こんな感じでvv
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