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2024/02
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桓祥? + 昇浅 + 剣ちゃん(ゲスト)  5回目
 血が下がる。

 見てはならないものを見ている。

 祥瓊は、頭の中で鳴りつづける警鐘に、その場を後にした。

 お郁ちゃんが………。

 それ以外は、何も考えられなかった。

 どこをどう歩いていたのだろう、

「祥瓊」

 耳に心地好く響く声に、祥瓊の物思いは、破られた。

 まるで、悪夢から醒めた心地で、自分を見下ろす深い青の双眸を見上げた。

「殿さま」

「眉間に皺を刻んでいたら、別嬪さんが台無しだぞ」

 にやりと笑われて、祥瓊は、うつむいた。

「どうした」

 いつもの祥瓊なら、「いやな殿さま」とつぶやいて、ぱしんと肩を叩いてくるだろう。

「具合でも悪いのか」

 さりげなく肩に手を置き、手近の茶店に、誘った。

 小さな茶店の中は、ほどほどに席が埋まっていた。

 ふたりは、畳敷きの机に向かい合って座った。

「生姜湯ふたつ」

と、桓堆が、声をかける。

 やがて運ばれてきた湯飲みを受け取り、祥瓊に差し出す。

「そら」

「すみません」

 受け取る姿も、しおらしい。

 湯飲みを両手で包みこみ、

「あったかい」

 ようやく、祥瓊が、少しだけ微笑んだ。

「なにがあったか知らんが、冷え切っていたじゃないか」

 くるくると割り箸で生姜湯を掻き混ぜながら、

「ちょっと、びっくりすることがあったんです」

 祥瓊がつぶやいた。

「俺に話せることか?」

 桓堆のことばに、

「………殿さまにも、話せません」

 祥瓊は、口をつぐんだ。

「そうか…………」

 生姜湯を飲み干し、桓堆は、店の親爺を呼びよせる。

「すまんが、名物の酒饅頭を四つほど包んでくれ」

 腰を折って、親爺が、奥へ消えてゆく。

 祥瓊は、ちびちびと、生姜湯を飲んでいた。

 親爺が、すぐに奥から出てきた。手には、竹の子の皮の包みがあった。それを受け取ると、

「飲んで終わったか、祥瓊」

「え?………はい」

「なら、釣りに行こう」

「は? ちょっと………殿さま、釣りって…………竿も魚篭も持ってないじゃ」

「おまえの親父さんのところにならあるだろう」

 そう言うと、祥瓊に包みを押しつけて、手を引っ張った。



 先ほどから小半時、ふたりは、祥瓊の家で借りた小舟の上で、中りを待っていた。

 日は傾き、はじめている。もう少しすれば、あっという間に、暮れてしまうだろう。

 小舟は、桟橋から動いてはいない。

 祥瓊は、桓堆が、釣り糸を垂れているのを、黙って眺めていた。

「あ、殿さま」

「しっ」

 祥瓊が指し示す先では、浮きが上下に揺れていた。

 ころあいを見計らって、桓堆が、竿を引く。

 糸の先では、フナがぴちぴちと跳ねていた。

「大きい」

 糸を手繰り寄せて、桓堆が、フナを魚篭に入れる。

「おまえの親父さんに捌いてもらおうか」

「鍋にしましょうか」

「そうだな」

 言って、桓堆が、顔をほころばせた。

「なにか?」

「やっぱり、笑っているほうがいいな」

「はい?」

「美人はどんな時でも美人だが、やはり、笑顔が一番だと、そう言ったんだ」

「………」

 祥瓊が、空に負けないほど真っ赤になる。

「そら。行こうか」

 うろたえる祥瓊の手を引いて、桓堆は、小舟から降りた。
 
 トクトクと、祥瓊の胸が高鳴る。

 桓堆に握りしめられて、祥瓊の手が燃えるように熱い。

 このままでいたい。

 半歩先を行く桓堆の広い背中を見つめて、祥瓊は、そう願わずにいられなかった。

 ふと、桓堆の足が止まった。 

「殿さま?」

 握りしめていた手が離され、すっと、桓堆が、祥瓊の前を遮る。

 そっと桓堆の脇から前を確認すれば、いつか見た、大きな傷のある浪人が、いた。血にも似た夕焼けが、やけに、似合って見えて、祥瓊が、身震いする。

「おまえさんが、退屈の殿さまとかいうふざけたヤツかい?」

 からかうような声に、

「そうだが?」

 桓堆が平然と返す。

「止水屋の一軒、色々と嗅ぎまわっているようだな」

 ナマスに刻まれた止水屋の死体が見つかったのは、三日前のことだ。

「あれは、おまえの仕業か」

「まさか。町人をやったところで、腕が上がるでなし」

 クツクツと、喉の奥で、笑いながら、男が言う。

「なら、何の用だ」

「あんたと一度、仕合ってみたくてな」

「殿さま………」

 祥瓊の声に、更木は存在にはじめて気づいた風情で、

「ああ、別嬪さん。あんたはちょいと邪魔だなぁ」

と、そう言った。

 桓堆と更木とを見比べる祥瓊に、

「しかたない。祥瓊、これを預かっていてくれ」

 魚篭と釣竿を手渡して、そっと、木の陰に押しやった。



 鞘から抜いた剣が空気を切り、打ち合わされる。

 鋭い気合いが、鋼の打ちおろされる音の合間に、聞こえる。

 隙のない身のこなしで、ふたりの男が、剣を振るう。

 それはまるで、踊りのようでもあった。

 命を賭けた、死の舞踏である。

 更木が刀を大きく振りかぶり、桓堆の頭上に振り下ろす。

 間一髪、刀で受け止め、撫でるように押し返す。手首を返し、反撃に出る。

 剣戟の音が、間断ない激しいものになる。

「殿さま………」

 桓堆は負けない。

 そう信じてはいても、怖ろしくて、からだが震えてくる。

 刀を交えるふたりを取り巻いているのは、剣気だろうか。触れれば、斬られてしまいそうで、おいそれと第三者が介入できるものではない。

 力が均衡していた。

 鍔迫り合いになっていた。

「強いなやはり」

 更木が、至近距離からにやりと笑った。

「お主もな」

 受ける桓堆も、また、口角を引き上げる。

「ゾクゾクする」

 更木が、剣を押しやろうとする。

 ギチリと鋼の擦れ合わさる音がたつ。

「いいぜ。いいなぁ、強いヤツとやる殺し合いは」

 更木の細い目が、陶酔に近い色を宿す。

「こちらは、いささか迷惑だがな」

 渾身の力を込めて、桓堆が、刀を返そうとする。

 力の均衡が破れたときが、勝負だろう。

 どちらが、均衡を破るのか。ぎちぎちと、刀が、武者震いにも似た音をたて続けていた。

「こちらです」

 数名の足音が、対峙の時を破った。

 互いが互いを押しやり、瞬時に、飛び離れる。

「やぁっ!」

 気迫の突きを、更木が、出す。

 構えたとも見えない桓堆が、突きを、かわした。

 きぃんと、冷たい音が響く。

 更木の刀の半ばから先が、折れて、地面に突き刺さっていた。

「くっ」

 更木は、大刀を投げ、脇差を抜いていた。

「なにをやっている」

 走り寄って来る数名に、

「邪魔が入ったな」

 桓堆が、刀を一振りして、鞘に戻した。

「しかたない」

 走ってくるのが同心だと気づき、更木は、脇差を鞘にもどした。

「この次は、邪魔が入らないところでな」

 そう言うと、折れた刀と切っ先とを拾い、更木は、その場から去ったのだった。

「物騒なヤツだな」

 苦笑を漏らし、桓堆が祥瓊を振り返る。

「殿さま」

 祥瓊から釣り竿と魚篭とを受け取ると、桓堆は、肩を竦めて、同心たちを見やった。



ここまで。
ちょっち、剣ちゃんの喋りが、がギンちゃんっぽいかなぁ。いや、彼は関西弁だったな。セーフ?
将軍さまは泰然自若。
やっぱ、浪人さんは、同心が来たら、逃げるかなぁ。一応人殺しを生業としてるからな。
祥瓊女史を町むすめっつーのは、やっぱ、失敗だったな。う~ん。連載が終わったら、オリキャラに直してアップするべきかも知れん。


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