fc2ブログ
2024/02
≪01  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29   03≫
桓祥? + 昇浅 + 剣ちゃん(ゲスト)  4回目
 勝手知ったる―――――である。

 十年も昔になる。父のところに、浅野屋の旦那さんが来て、祥瓊を娘の遊び相手に寄越してもらえないか―――と、言ったのだ。

 毎日のように、遊びに行った。珍しい玩具や、美味しいお菓子。綺麗で不思議な舶来の調度品。毎日見ていても、飽きなかった。もちろん、お郁とも仲良くなった。

 お郁は、頼りないくらいぼんやりとしていて、やさしい。町一番の大店のお嬢さんなのに、どこか、遠慮がちで、おどおどしているところもある。なにを提案しても、『いいよ』としか言わなくて、それが癇に障って、何度かきつく言ったこともあった。けれど、怯えたような顔を見ていると自分が苛めているみたいで、居心地が悪くなるのだ。

 はしゃぎすぎた祥瓊が、人形を欠いてしまっても、簪を踏み折ってしまっても、怒ったことなどなかった。

 そういえば、髪に挿している気に入りの桃色珊瑚の簪は、お郁とお揃いだった。

 最近では、桓堆のことで忙しく、お郁のところから足が遠のいていた。

 かどわかされそうになったときに助けてくれた、お武家さまの話をよくした。

『桓堆さまっていうお名前でね、とっても男前で、とっても気風がよくって、腕が立つのよ』

 縁側に腰掛けて、祥瓊が助けられたいきさつを語って聞かせると、

『絵草子みたいだね』

と、相槌をうってくれた。

 憧れが、恋に育つのなんか、簡単だ。

 父の船宿の常連だと知ったのは、すぐのこと。

 今では、お屋敷に出入りが自由なくらい、気心が知れた仲になっている。と、祥瓊は自負しているのだが、桓堆は、飄々として、容易に内心を悟らせないのだ。

 気風がよくて腕がたって男前。そんな男のひとを一人でふらふらさせるなんて、トンビに油揚げもありかねなくて、目が離せない。しっかり捕まえてしまいたくて、お郁のところに顔を見せるのは、桓堆が留守のときくらいになってしまっていた。

 それでも、お郁は、いやな顔をしないで迎えてくれる。

『なにか、心配事があるのなら、桓堆さまに相談に乗ってもらったら』

 遺言がでてきたときのお郁のようすに、祥瓊はそういいつづけた。

 しかし、

『うん………』

と、お郁は煮え切らなかった。

 もっと、強く勧めたらよかった。

 お郁の性格は、よく知っている。

 悩み事をひとに話すのは、よっぽどのことがなければ、しない性質だ。

 それなのに、軽く考えていた自分に、祥瓊は、一人、後悔していた。

 お郁の部屋への抜け道を、祥瓊は、覚えている。お郁の部屋は、独立した別宅のような造りになっていた。母屋とは築山を挟んで離れた位置にある。生垣に囲まれて、外からは、ちょっと、わからないようになっていた。そこで、ばあやさんとじいやさん、それに、ねえやさんが、お郁の身の回りの面倒を見ていた。お金持ちって凄いなぁと思ったものの、同時に淋しそうだった。

 川原で見かけたときのお郁のようすが、頭から離れなかった。

 魂が抜けたかのようで、戸板の上の三原よりも、一層のこと死人のようだったのだ。

『ここからだったら、祥瓊ちゃんがおっかさんやおとっつぁんに叱られた時、誰にも見られずにここに来れるよ』

 昔、泣き腫らした目をしていた祥瓊に、お郁がそういって、悪戯っぽく教えてくれたのが、築山の裏に通じている、抜け道だった。お郁の部屋からは、築山の裾にちょうどひとくらいの大きさのある岩が三つ見える。その奥に、ちょっと見ではわからないような抜け道が隠されていたのだ。

『教えたって、内緒だからね』

 泥棒が知ったら、入っちゃうしねと、祥瓊は、誰にも喋っていない。

 たまに、桓堆が留守だったりしたときに、思いついたようにお郁のところを訪ねたりもしたが、いつも、お店の誰かに確認してから、勝手口に回っていた。

 そういえば、いつから、抜け道を通らなくなったのだったろう。

 教えてもらった当初は、ドキドキしながら、抜け道からお郁のところに遊びに通っていた。

 それが、どうしてだったろう。

 ああ、そうだ。

 いつだったか、薄暗い抜け道を通っていたとき、黒い、見知らぬ男とすれ違ったのだ。

 とっさに、土壁の窪みに、しゃがみこんだ。

 気づかれなかったと思う。

 暗い抜け道は、ところどころ壁にぽっかりと凹みが開いていて、そこは、一層暗い影になっている。

 男が、消えるまで、祥瓊は、息を殺して待っていた。男が消えると同時に息をついた祥瓊は、なにか、不思議な匂いを嗅いだ。それは、しんと湿った抜け穴の土臭い匂いと交じり合って、奇妙な余韻を祥瓊に覚えさせたのだった。

 我に帰った祥瓊は、浅野屋のお店まで、必死で走った。泥棒だったら大変だと、そう焦っていたのだ。焦ってはいたが、しかし、同時に、抜け道には、あれ以上いたくなかった。

 必死だった。けれど、浅野屋にたどり着くころには、なぜだか、誰にも喋ってはいけないような、そんな気がして、そうして、いつものようすを取り繕い、祥瓊は、勝手口から入ろうとした。

 そうして、その日にかぎって、

『今日はお郁お嬢さんは体調を崩されておりますよ』

と、前々から苦手にしていた大番頭に、言われたのだった。

『お見舞いに顔を見るだけにするから』

と、そういうのもやっとだった。

 ちょっと待ってくださいよと、一度奥に消えた大番頭が、かなり経ってから戻ってきて、祥瓊は先導されたのだ。今更どうして大番頭に案内されるんだろう――漠然と考えたことを覚えている。そうして、祥瓊は、いつもの部屋で、見たことがないくらい青ざめて布団に横たわっているお郁を、見たのだった。

『どうぞ』

 大番頭に促されて一歩部屋に入った祥瓊は、ふと、足を止めた。

 鼻先をかすめた香に気がついた。

 鼻の下まで夜具を引き上げたお郁が、やけにやつれて見えたのを覚えている。

 真っ赤に腫れた目が、気だるそうだった。



 あれは、お郁と祥瓊が、十四になるやならずのことだった。



「そんな………」

 目の前の光景が、祥瓊には信じられなかった。

 喪中の証の、暗い色の着物を身にまとったお郁が、見知らぬ男に背後から抱きしめられている。

 祥瓊がいる抜け道の出口からは、お郁の色をなくした表情がよく見えた。

 耳もとになにかささやかれたらしい。お郁が、震える。

「そ、んな、ことっ」

 聞いたことがない、お郁の激しい口調に、祥瓊の目が、瞠かれた。

 お郁は抗っているのだろう。しかし、男からは、余裕さえ感じられる。

「――――」

 男の口が、ことばを紡ぐ。

「できるわけないって、あなたが一番知っているじゃないですか」

 悲鳴じみたお郁の声が、祥瓊にまで届いた。

「――――」

 男が、目を細めて、嗤う。

 そのまま、お郁を仰のかせて、くちびるを合わせた。

 お郁の抵抗を楽しんでいるかのように、男の空いたほうの手が、お郁のからだの上を、滑った。

 
とりあえず、ここまで。
う~ん。完成するのか、これ。
浅野くんもとい、お郁ちゃんが、我ながら可哀想ですね。
彼女の抱えている秘密とは?
スポンサーサイト



Secret
(非公開コメント受付不可)

いつもありがとうございます♪
 うわ~全部消えましたxx
 と、気を取り直して。
 tooru_itouさま、辺境の日記に反応ありがとうございます。
 大団円はいいですよねっ! 大好きです。
 山手さん、いっぱい読まれてたのですか~。凄いです。量的に、魚里は、江崎さんのほうが多いです。まるっとハーレクインですからvv 読みやすいんですよ。お約束満載で。
 山本周五郎さんは、そういえば、二作ほど読んでました。映画で見たのが、『おぼろ籠』、読んだのが、『赤ひげ~』と『さぶ』でしたね~。思い出しましたvv
 平岩さんは~たくさん出されてて、二の足踏んでるんですよ。現代物なら、『犬のいる窓』と、『~紅茶の~』というのを読んでます。後は、未読ですね。案外、有名どころは、未読が多いです。
 宇江佐さんは、一度、読もうかどうしようか悩んだ記憶がvv 今度は迷わずにチャレンジです///
 めだか姫~も、同様ですねvv 
 新規開拓が最近進まない魚里でした。
 コメント、ありがとうございます!
プロフィール

魚里

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる