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2024/03
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桓祥? + 昇浅 + 剣ちゃん(ゲスト)  2回目
「退屈の殿さま」

 慌しく広縁から呼びかけてくる声に、桓堆は、布団をはぐって起き上がった。昨夜は少し、酒を飲みすぎたのだ。

「なにごとだ、騒々しい」

 障子を開けると、すがしい美貌の少女が、勿体無いほど顔を歪めて、彼を見上げる。

「殿さま、はやく、はやく」

「どうしたというのだ。いったい」

 頭を傾げながら、寝巻きを着替える。

 その間、祥瓊は、庭を眺めていた。

 帯に刀を落とし込み、

「そら。準備はできたぞ」

 ぐいと手を握られて、足早に歩く祥瓊に、桓堆はおとなしく従ったのだった。

 川原に集まった野次馬を、十手持ちが追い払っている。

「そら、あそこです」

 野次馬を避けていた桓堆が、ふと、足を止めた。

 すれ違った、浪人風の男の動きを、目で追う。

 すれ違いざまに目に飛び込んできた、顔面左半分の大きな傷が、桓堆の脳裏に、刻み込まれていた。

「どうしました?」

「……あの男」

「あのご浪人さんが?」

「血のにおいがする」

 野次馬に紛れてゆく背中は、痩せぎすで飄々としているかのようだが、隙がない。

 そう言った桓堆のことばがとど来たわけでもないだろうが、浪人が、ふと振り返った。

 細い目が、桓堆の紫紺のまなざしとぶつかる。

 にやり。

 浪人の薄いくちびるが、笑いを刻んだ。

「ほんと、おっかない」

 ぶるぶると胴震いをしながら、祥瓊が、桓堆の腕にすがりついた。

 戸板に乗せられて運び去られようとしていた骸から、筵を少しだけ、桓堆は、はぐった。

「なにを……」

 注意の声が、途中でやまる。

「これは、青さま」

 同心が、桓堆に、腰を折った。

 もうひとつ、後から続くと板の筵も少しだけ持ち上げ、

「心中か?」

 町人風の身形をした死人の青白い顔を見下ろして、桓堆は、訊ねた。

「そのようですが………」

「お郁ちゃん!」

 祥瓊の声に振り返れば、死人よりも青い顔をした、女にしてはいささか丈の高い少女が、いつの間にか、一同の傍らにぼんやりと立っていた。

 少女がその場に膝をつきそうになるのを、桓堆は抱きとめた。

「お嬢さま」

「そのほうは」

 同心が尋ねるのに、

「はい。手前は、小司馬、浅野屋の大番頭を勤めております。こちらは、お郁お嬢さんです」

 後からやってきた、番頭風の男が、腰をかがめた。

 まだ去らずに集っていた野次馬達が、あれが――とばかりに、町一番の商家の令嬢を、眺めやる。孝行娘との評判ばかりが一人歩きをして、お郁本人は、人前に出たことがなかったのだ。

「仏に、見覚えがあるのか」

 同心の質問に、お郁は、震えるばかりだった。

 場所を、番屋に移して、同心が尋ねるのに、

「お郁お嬢さんの婿に間違いございません」

と、大番頭が代わって答える。

「では、女のほうは」

「そちらは、さて。存じ上げませんが」

「お郁もか」

 同心の声に、お郁の頭が、こくりと、大きく揺れた。

 誰も、そんな、お郁のようすを不審に思いはしない。なぜなら、浅野屋の跡取り娘が婿を迎えたのは、ほんの十日ばかり前。並びの町屋向かいの町屋総てにご祝儀が振舞われた、それは、盛大なものだった。

「お郁ちゃん」

 祥瓊が、痛ましそうに、お郁の背中を、そっとさすった。







「なんでも、三原某は、前からあの女とはじっこんで、仲人を頼まれていた、浅野屋とは縁の深い、止水屋の主人に、婿に入るまでには、身辺を整理するようにと散々言われていたようですな。なにがしかの切り餅が……あ、これは、浅野屋から出たようですが……女のほうに手切れとして渡されていたようですが。あにはからんや。どうやら、婿入り後も、関係は続いていたということですな」

 同心が十手で肩を叩きながら、桓堆に、話すのを聞いて、

「かわいそうな、お郁ちゃん」

 祥瓊が、顔をゆがめた。

「関係が続いていたなら、別段、心中する必要はないだろう」

 刀の手入れをしながら、桓堆が、口にする。

「それなんですが。大番頭が言うには、三原は、女のところに通っているのをあまり隠しもしなかったようですな。もっとも、お郁のほうは、世間知らずの深窓のお嬢さんですから、気づいてもいなかったようで。逆に、仲人の止水屋のほうが、慌てたようです。いくら浅野屋の前の主人の遺言があるからとはいっても、女と切れなければ、浅野屋から追い出す。無一文でね。と、まぁ、膝詰め談判をしたのだそうですよ。それが、あの前の晩のことだったらしいですが」

 刀を矯めつ眇めつ眺めやり、鞘にもどす。

「すべては、お郁という娘の知らぬところで話が進められたのだな」

 ぽつりと、桓堆が、つぶやいた。

「はあ。ですが、皆、あの娘に良かれと思ってのことでしょうからなぁ……。あ、これは、どうも」

 同心が、祥瓊が差し出した茶を飲み、ぽりぽりと着物の襟元を掻いた。







「うまくいきましたな」

「これ以上なく」

 行灯がひとつぎりの、あまり広くもない部屋では、男がふたり顔を突き合わせていた。

 堪えても、笑いが漏れるらしく、二人の肩は小刻みに揺れている。

「これで、お郁お嬢さんは、結婚なさったことになる。浅野屋の身代とは別に、例のものも自由に動かせるようになったわけです」

「例のものは、お嬢さんが結婚して一人前になってからとは、浅野屋の先代も、面倒くさい遺言を残しましたな」

「お嬢さんが結婚なさるはずがないというのを重々承知の上ですよ。だからといって、偽の遺言を作って、偽の婚約者を仕立て上げるとは、止水屋さん。相当の、悪ですよ」

「これで、お嬢さんは、私の頼みを聞いてくれるでしょうな」

「さて、それは、どうでしょう。あの方がおられますから」

「あの方!」

 止水屋のからだが、小刻みに震え始めた。

「お嬢さんは、三原さんの件は、あの方と私の策だと考えておられるようですが」

「あの方に、バレやしませんか」

 止水屋が、小司馬を見上げた。

「止水屋さん、今更でしょう」

「は?」

 突然雰囲気の変わった小司馬に、止水屋が、不思議そうな顔になる。

「あの方は、承知しておられますよ」

 小司馬の薄いくちびるが、引き連れるように、歪んだ。

「しょ、しょうし………」

 止水屋が、小司馬から、遠ざかろうと、尻で、いざる。

「あの方は、あなたが邪魔――なのだそうですよ。あなたは、知りすぎている上に、野心家だ……小心者のくせにね」

「謀ったな」

 床の間の柱にすがって、立ち上がろうと藻掻く止水屋を、座したまま見上げて、小司馬は、

「先生がた。お願いしますよ」

と、凄んだ。

「ひっ」

 障子が、襖が、小司馬の声に、一斉に、開かれる。

 小司馬は、立ち上がり、

「片付けてくださいな」

 そう言うと、背中を向けた。

「おい、大番頭さんよ」

 縦も横も大柄な男が、小司馬に近づいた。

「なんだ」

「ほんとに、止水屋を殺してもいいのか」

「殺した後に聞くか」

「いやぁ、ほら、俺らは今まで、止水屋に飼われてたからな。小遣いをはずんでもらったのはいいが、これから先が―――」

「心配するな。今までどおり、おまえたちはここにいればいい」

「は?」

「ここは、元々、浅野屋の寮だからな」

 目が点になるとは、このことだろう。

「止水屋は、考え違いをしていたんだよ。少しな。おまえ達は、今までどおり、ここにとぐろを巻いて、頼まれたときに、仕事をしてくれれば、それでいい」

「そうかい」

「ああ」


こんな感じ。
祥瓊女史に、アダっぽい町娘っつー役は似合わんなぁと思いながら書いております。

◇◇今日のロイ◇◇
 「今日のロイ」って、一括変換すると、「今日呪い」となってしまってやりきれない魚里です。
 なんか訴えてるなぁと思ったのですが、別に思い当たる節がなくて、「ポチタマ」を見ていた魚里の視界の隅で、ロイは、洗面所にあがってた。
 しばらくして、祖母が風呂から上がったのですが。
「誰か知らんけど、洗面所でうんちしとる」と。
 先ほどの視界の映像が頭をちらつき、なにごとか訴えてたロイを思い、咄嗟に確認。はい。みごとなうんち。
 ついでに猫トイレも確認するも、いつもより汚れてないくらい。
 なんでやねんと、ポチタマ、まさおくんの旅を途中でほっぽり出して、ロイのうんちの処理と、猫トイレの掃除をする魚里でした。
 ロイくん、君のちっこい脳みそはいきなりトイレを忘れたのかね?



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