昇紘x浅野 お遊び
2005-02-05(Sat)
町はにぎやかだった。
寒さにもめげず、やけに華やいで見えるのは、女たちの雰囲気のせいだろう。
昇紘と喧嘩寸前にまで言い合って、やっとのことで外出をもぎとったのだ。せっかくの外出だというのに、昇紘の、オレを信じていないいいざまが頭の中を埋め尽くしていて、腹が煮えてどうにもおさまらなかった。
そんな気分のまま町に出たオレは、女たちのパワフルさに、圧倒されていた。
こんなの、大分前に見たことあるよーな。
つらつらと考えて、はたと、思い出した。
「あ! バーゲンセール」
あっちにいたころは、よく母親の荷物持ちに付き合わされたものだった。
懐かしさにしみじみと耽っていると、
「浅野っ」
聞き覚えのある声が、聞こえてきた。
振り返ると、頬を染めて走ってきているのは、
「珊玉(さんぎょく)」
たしか、六つになったばかりだったはずの、可愛らしい少女だ。
「浅野だ~。すっごい久しぶり。ね、ねっ、今日は来てくれるんでしょ」
オレの上着の袖を引っ張って、家のほうへと連れて行こうとする。
「おかぁさんも、浅野に会いたがってるよ」
どうしてるかなって、よく言ってるもん。
久しぶりの外出とはいえ、目的は別段ない。ただ、屋敷にいると、息が詰まる。だから、たまには息抜きをしたくなる。それだけのことだ。
珊玉に引っ張られるままに、オレは、懐かしい、明蘭の店に足を踏み入れた。
途端、鼻をくすぐったのは、甘い香だった。
そうして、女たちのさんざめきだ。
昔、オレが、帳簿付けをしていた土間いっぱいに、女たちが犇めいている。
思わず、くるりとユーターンして、土間から出て行きたいくらいの迫力だ。しかし、
「おかーさん、浅野だよ」
と、袖を引っ張る珊玉を振り払うわけにもいかない。
女たちを掻き分けて、奥へと進むと、そこはショウケースみたいな台が設けられていた。そこに並べられているものを見て、オレはなんとなく、直観していた。
ショウケースの向こう背中を向けていた女性が、くるりと振り向いた。
「いらっしゃいませ」
すっかり大人の女性になった明蘭が、オレを見て、目を丸くした。
オレは、明蘭に拾われた頃からほとんど成長していないって言うのに、オレよりも年下だった明蘭は、とてもきれいに、眩しくなっている。なんだか、おいてかれたみたいで、少し淋しい。
「いったいこの騒ぎは?」
つい、戦場のように忙しいという状況を忘れて、オレは間が抜けた質問をしてしまっていた。
手伝いらしい少女に、なにやら言いつけて、明蘭が、オレを手招いた。
帳場の裏手の部屋に通されて、ひとしきり、懐かしさにかられて近況を報告しあった後、オレは、明蘭に、
「まさかと思うんだけど」
と、確かめたのだ。
出された茶菓子といい、土間に充満していた匂いといい、
「そう」
珊玉が、オレの親指の先くらいの茶色い菓子を口に放り込む。
「ばれんたいんでーって言うんですって」
十年くらい前か、まるで歴史は繰り返すって感じで、オレは、オレが明蘭に拾われた浜辺で、海客を助けた。
それが、明蘭の夫で、珊玉の、父親だ。
オレが男を拾ったなんていったら、昇紘がどんな焼き餅を焼くかしれなかったので、オレは、明蘭に海客を預けたのだ。
元気になった海客は、あっちで、パティスリーをしていたらしい。言うまでもないが、洋菓子屋だ。
で、まぁ、こっちっかわの菓子屋で働くことが決まったらしかった。
オレが知ってるのは、あとは、明蘭と海客とが結婚して、珊玉が生まれたってくらいだ。
「商売人なんだな~」
「思ったより評判になっちゃって、猫の手も借りたいくらいなの」
どうも、本当の、ちょこれいと――っていうお菓子とは、ちょっと違うらしいんだけどね。
「美味かったよ」
「そう。浅野に言われたら、夫も喜ぶは」
すっかり、妻の顔をして、明蘭が、微笑んだ。
帰ろうと腰を上げると、明蘭が、包みをひとつ差し出した。
明蘭と包みとを交互に見比べると、
「浅野から郷長さまに差し上げてね」
仲直りしないと。そんな風ににっこりと微笑まれると、受け取るしかないじゃないか。
「ありがとう」
そんなオレの袖を、珊玉が、引っ張る。
「なんだ、珊玉」
しゃがみこんだオレに、まるで明蘭のまねみたいに、小さな手が差し出したのは、胡桃くらいの大きさにラッピングされた包みだ。
「あのね、これ……槙々(しんしん)ちゃんに」
オレと昇紘の息子―――と、珊玉とは、仲がいい。
「わかった。渡しとく。今度は、連れてくるからな」
「約束だよ」
「ああ」
指切りをして、オレは、店を後にしたのだった。
22:21 2005/02/05
たまには、気分を変えてみましたが、冗漫です。
バレンタインねたを、捏造しちゃれと思ったのですが、あえなく、玉砕。う~ん、練習ということで。
浅野と昇紘、いつまでも痛いのもってことで、仲良しにしてみました。が、十数年後の設定ですねこりゃ。
仙だし、浅野も仙になってるって感じで、ほんとなら、子供なんてできるはずないんですが、そのへんは、まぁ、パロディ、お遊びということで、ご容赦ください。いや、まぁ、それ以前に、男同士で子供はできんだろうxx
寒さにもめげず、やけに華やいで見えるのは、女たちの雰囲気のせいだろう。
昇紘と喧嘩寸前にまで言い合って、やっとのことで外出をもぎとったのだ。せっかくの外出だというのに、昇紘の、オレを信じていないいいざまが頭の中を埋め尽くしていて、腹が煮えてどうにもおさまらなかった。
そんな気分のまま町に出たオレは、女たちのパワフルさに、圧倒されていた。
こんなの、大分前に見たことあるよーな。
つらつらと考えて、はたと、思い出した。
「あ! バーゲンセール」
あっちにいたころは、よく母親の荷物持ちに付き合わされたものだった。
懐かしさにしみじみと耽っていると、
「浅野っ」
聞き覚えのある声が、聞こえてきた。
振り返ると、頬を染めて走ってきているのは、
「珊玉(さんぎょく)」
たしか、六つになったばかりだったはずの、可愛らしい少女だ。
「浅野だ~。すっごい久しぶり。ね、ねっ、今日は来てくれるんでしょ」
オレの上着の袖を引っ張って、家のほうへと連れて行こうとする。
「おかぁさんも、浅野に会いたがってるよ」
どうしてるかなって、よく言ってるもん。
久しぶりの外出とはいえ、目的は別段ない。ただ、屋敷にいると、息が詰まる。だから、たまには息抜きをしたくなる。それだけのことだ。
珊玉に引っ張られるままに、オレは、懐かしい、明蘭の店に足を踏み入れた。
途端、鼻をくすぐったのは、甘い香だった。
そうして、女たちのさんざめきだ。
昔、オレが、帳簿付けをしていた土間いっぱいに、女たちが犇めいている。
思わず、くるりとユーターンして、土間から出て行きたいくらいの迫力だ。しかし、
「おかーさん、浅野だよ」
と、袖を引っ張る珊玉を振り払うわけにもいかない。
女たちを掻き分けて、奥へと進むと、そこはショウケースみたいな台が設けられていた。そこに並べられているものを見て、オレはなんとなく、直観していた。
ショウケースの向こう背中を向けていた女性が、くるりと振り向いた。
「いらっしゃいませ」
すっかり大人の女性になった明蘭が、オレを見て、目を丸くした。
オレは、明蘭に拾われた頃からほとんど成長していないって言うのに、オレよりも年下だった明蘭は、とてもきれいに、眩しくなっている。なんだか、おいてかれたみたいで、少し淋しい。
「いったいこの騒ぎは?」
つい、戦場のように忙しいという状況を忘れて、オレは間が抜けた質問をしてしまっていた。
手伝いらしい少女に、なにやら言いつけて、明蘭が、オレを手招いた。
帳場の裏手の部屋に通されて、ひとしきり、懐かしさにかられて近況を報告しあった後、オレは、明蘭に、
「まさかと思うんだけど」
と、確かめたのだ。
出された茶菓子といい、土間に充満していた匂いといい、
「そう」
珊玉が、オレの親指の先くらいの茶色い菓子を口に放り込む。
「ばれんたいんでーって言うんですって」
十年くらい前か、まるで歴史は繰り返すって感じで、オレは、オレが明蘭に拾われた浜辺で、海客を助けた。
それが、明蘭の夫で、珊玉の、父親だ。
オレが男を拾ったなんていったら、昇紘がどんな焼き餅を焼くかしれなかったので、オレは、明蘭に海客を預けたのだ。
元気になった海客は、あっちで、パティスリーをしていたらしい。言うまでもないが、洋菓子屋だ。
で、まぁ、こっちっかわの菓子屋で働くことが決まったらしかった。
オレが知ってるのは、あとは、明蘭と海客とが結婚して、珊玉が生まれたってくらいだ。
「商売人なんだな~」
「思ったより評判になっちゃって、猫の手も借りたいくらいなの」
どうも、本当の、ちょこれいと――っていうお菓子とは、ちょっと違うらしいんだけどね。
「美味かったよ」
「そう。浅野に言われたら、夫も喜ぶは」
すっかり、妻の顔をして、明蘭が、微笑んだ。
帰ろうと腰を上げると、明蘭が、包みをひとつ差し出した。
明蘭と包みとを交互に見比べると、
「浅野から郷長さまに差し上げてね」
仲直りしないと。そんな風ににっこりと微笑まれると、受け取るしかないじゃないか。
「ありがとう」
そんなオレの袖を、珊玉が、引っ張る。
「なんだ、珊玉」
しゃがみこんだオレに、まるで明蘭のまねみたいに、小さな手が差し出したのは、胡桃くらいの大きさにラッピングされた包みだ。
「あのね、これ……槙々(しんしん)ちゃんに」
オレと昇紘の息子―――と、珊玉とは、仲がいい。
「わかった。渡しとく。今度は、連れてくるからな」
「約束だよ」
「ああ」
指切りをして、オレは、店を後にしたのだった。
22:21 2005/02/05
たまには、気分を変えてみましたが、冗漫です。
バレンタインねたを、捏造しちゃれと思ったのですが、あえなく、玉砕。う~ん、練習ということで。
浅野と昇紘、いつまでも痛いのもってことで、仲良しにしてみました。が、十数年後の設定ですねこりゃ。
仙だし、浅野も仙になってるって感じで、ほんとなら、子供なんてできるはずないんですが、そのへんは、まぁ、パロディ、お遊びということで、ご容赦ください。いや、まぁ、それ以前に、男同士で子供はできんだろうxx
スポンサーサイト