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5回目かな?
 いつもご来訪&拍手コメントありがとうございます♪

 この間某ブログ様で拝見したキットカットのたくさんの種類。いえ、前々からさすがに知ってましたけどね〜あまり興味はなかったのよ。大人のキットカットで充分だし〜と思ってましたので。でも、わさび風味って興味あるわ〜vv どこで売ってるのかな? 明日はちょっと遠出するので探してみようかなぁ〜。

 そんなこんなで5回目です。









** 振り子 **







 艱難辛苦の末に魔王の城にたどり着いたとき、勇者さまのパーティは勇者さまを加えてわずか四人となっておりました。

 勇者さまと聖騎士さまお二人に、聖魔術師さまです。

 城の外で大勢のマモノや魔族たちを相手に戦っているのはこれまで勇者さまが集めたたくさんの兵たちです。彼らはできる限り城の中に魔族やマモノたちを入れないようにと獅子奮迅の戦いを繰り広げておりましたが、相手は魔族マモノです、そう簡単に行くはずもありません。

 誰も彼もが一所懸命に己の役割をこなしておりました。



 そうして勇者さまもまた。



 けれども。

 勇者さまは愕然と立ち尽くしておられました。

 玉座に座る魔王を見て、その褐色の目を疑わずにはおられなかったのです。

 なぜなら、その魔王の魔王たる人を惑わさずにおれない麗しい容姿をしたその存在こそ、勇者さまがいつしか心を奪われた相手だったからです。

 そう。

「なぜ?!」

とひとりごちずにはおれないほどにまで心惹かれていた相手だったのです。



*****



「オレを騙していたのか」

 心の底から絞り出すような苦渋に満ちたことばだった。

 琥珀の瞳が、勇者の目をのぞきこむ。

「いかさま」

 薄いくちびるが笑みを刻む。

 白皙に刻まれた赤の際立つ色彩に、勇者の背筋を中心に悪寒が広がる。

 まとう雰囲気もその容姿さえも同一だというのに。

 目の前の男と、勇者が焦がれた男とが重ならないのだ。

 重ならない。

 それなのに、怖いと戦慄する心の奥底に、やはり恋い焦がれる想いが沈殿している。

 魔王だと知ってしまった今だとて、勇者は彼に恋をしたままなのだ。

「そなただとて、名乗りはしなかったであろう。なぁ、勇者どの」

 持ち上げられた顎をひときわ鋭角にもたげられて、後ろ首が痛んだ。

 互いの呼気を感じるほどに顔を寄せて、魔王が嘯く。

「いや、ユウマだったかな」

「どうして?」

 なぜ知っているのだ。

 この世界の誰一人知ることのない自分の名前を。

 そう。

 自分だとて、魔王の名を知らないのだけれど。

 魔王は偽名すら名乗りはしなかった。

 互いに名を知らないままの、偶然の邂逅の数々が脳裏を過って消える。

「我は魔王なれば」

 その一言で説明は充分だと言わんばかりの断言だった。

 まるでくちづけを交わすかのような距離感で、互いの顔を眺めやる。

 しかし、いつまでもそんな時は続かない。

「さて。我は何をするべきかな」

 唐突に、魔王が口を開いた。

「ここにいる人間は、我に仇なすものばかり」

 勇者の顎を放し、背筋を伸ばして睥睨する。

「であれば」

 キンと冷ややかに空気が凝りつく錯覚があった。

「我としては、葬らねばなるまいよ」

 右手を空に差し伸べる。

 深い紫紺のローブの袖が艶めかしい動きを見せて、どこまでも麗しい肌が空気に現われた。

 魔王の手の触れる空間が奇妙な歪みを見せて輝く。

 切り取られた空間がまるで掻き分けられる帳のように左右に分かれ、そこから現れたのは黄金のくちばし、溶岩の目、細い銀の棘の生えた頭、金剛石の鱗に覆われた長い首だった。

「我の探し求めた愛玩動物よ」

 切り取られた次元の縁に細かな皹が刻まれてゆく。

 甲高いさえずりが、宮殿をすら震わせる。

 それぞれの場所で意識を失っていた聖騎士が、聖魔術師が、目を覚ました。

「バルドロイっ!」

 それは、聖魔術師の叫びだったろう。叫ぶとともに、彼は盾の魔法を勇者の眼前に展開した。

「耐えるか?」

 その翼の一薙で堅牢な城塞を破壊しすることができる凶悪なる怪鳥と伝えられる伝説のマモノがそこにいたのだ。しかも、その黄金のくちばしは、今まさに勇者に襲いかからんばかりである。

「勇者どのっ」

「逃げてっ」

 聖騎士たちの悲鳴もこだます。

 しかし、勇者の耳に届いたものか。

 勇者は凝然としたまま動かない。

 いや、動けないのか?

 誰しもがそう思った。

 その時、

「違う!」

 立ち上がりざま、勇者が叫んだ。

「違う! 違う! 違う! なんで? どうして魔王を殺さなきゃならないんだ? だって、そうだろう? マモノが人を襲うから退治する。それはわかる。わかるんだ。けど、だから? 魔王を殺して、それで、マモノは人を襲わないようになるのか? 逆だろう? 魔王がいるから、今くらいで済んでるんじゃないのか」

 血を吐くような叫びだった。

 けれど。

「勇者どの、ここまで来てなにをっ!」

 仲間のうち誰が叫んだのか。

「魔王を滅ぼさない限りマモノどもが人間を襲いつづけることに疑いはない!」

「ミドガルズがマモノの世界になってしまっては、人間はそれらの餌と成り果ててしまうのだぞ」

 首を振り続ける勇者に、

「もういい、よこせっ」

 体当たりをして、その腰の剣を奪い取るものがいた。

「聖騎士………」

「勇者さまが殺せないというなら、私が」

「よせっ」

「それは、勇者どのにしか扱えぬのだ」

 構えるジウリアを、いまひとりの聖騎士が押しとどめる。

「だって、だって、情けないだろう? あんなにたくさんの人が死んだ。仲間になった人だとてたくさん死んだ。それなのに、いまになって………………あんまりだっ」

「落ち着け。リア。勇者どのだとて苦しまれているのだ」

 さあ−−と差し出した手にジウリアが剣を乗せる。

「勇者どの。無理やり元の世界から引き離されたあなたの苦悩は俺などにははかりしれない。しかし、あなたはこの世界の、我々の救世主なのだ。我々の祈りを、期待を………………どうか!」

 この世界の人間の叫びもまた、血を滲ませるものだった。

 勇者も目にしてきた数々の酸鼻極まるマモノの所業。

 惨殺され喰らわれた数多の骸。

 からだだけではなく心にも生涯残るだろう傷を負った被害者たち。

 その目にしてきた数々の。

 耳にしてきた、彼らの望み。

 涙。
 
 希望。

 苦悶。

 祈り。

 すがり付いてくる手、まなざし。

 その膨大な数々が、彼の脳裏を経巡った。

 それらは、この世界に拉致された時から心の奥底に圧し殺した勇者の感情に似たものだった。

 揺らぐ。

 勇者の心が、振り子のように揺れた。







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