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新盆
 いつもご来訪&拍手ありがとうございました。

 今日は祖母の新盆の最終日でした。
 ということで、台風もひと段落したので食べに行っていましたよ。予約してましたしねぇ。
 お店だけ予約して、みんなで好きなものを注文して食べるパターンです。

IMG_2300.jpg

 とりあえず天丼定食をチョイスしたのですが、美味しかったですけど、重かった。今もちょっと吐きそうxx 仕方ないので胃薬飲みました。これ書いたら寝ます。はい。


 で、昨日書いてたはぐれびとの11回目です。





***** 別れ *****







「彼は、何者なのですかな」

 雑魚寝の闇に、こそりとジョルトが口にする。

 出口近くに見張りが立つ。

「知らぬ」

 ごろりと向きを変えて、ヴァルムが答える。

 当のヤヒロはこの場にはいない。

『他所者はお邪魔でしょう』

 などと軽く言い放ち、洞窟の主の元へと行ったのだ。

 洞窟の主を思い返し、怖気を覚えながら見送り、そうして、今である。

「あの目は見えておらぬのですよな? まるで見えているかのように動きますな。まこと見えておらぬのかどうか。それにしても、あの歌。見てきたかのように、見ていたかのように、歌いましたな」

 とても見事な歌声でありましたが。

 神殿の崩壊と王国の滅亡には背筋に震えが走りましたよ。

 続けられることばに、誰も余計なとは言わない。

 それだけヤヒロの歌も声も素晴らしいものであったのだ。気配を感じさせない動作や見えているかのような挙措寄りすらも、そちらの方が気になるほどにである。

 地を這うような低い旋律から、天にさえずるひとならざるなにものかのような細高い音色まで。

 まるで性別などないかのようだった。

「あんな歌い手の噂などこれまで耳にしたこともないな」

 ヴァルムが言えば、

「他国のものだろうが。それにしても、耳に入ってきたことがないというのが不思議だ」

 岩肌に背中を預けているティボルが続けた。

「世捨て人なのだろうよ」

 同じく岩を背にしたシャーンドルのつぶやきに、

「それほど歳を寄せているふうには見えないが」

 それは、ヴァルムの正直な感想だったが。

「それは言える。せいぜいがパールより数歳上くらいか」

 闇の中でティボルが目を眇める。

「いや。あれだけ痩せやつれている上に汚れている。さらに目に布を巻きつけているのでは、わからん」

 ヴァルムが自分の言葉を否定する。

「でも、あの声の張りは、若いですよ」

 ポツリと、パールが呟いた。

「声変わりをしているのは確かでしょう」

 不思議な男だというのが、全員の一致した意見であるようだ。

「それで。若殿には、彼を如何いたすおつもりで?」

 ジョルトの問いに、

「さて。どうするか」

 ヴァルムのつぶやきは闇に溶けた。





「ん?」

 大蛇が頭を動かす気配に、ヤヒロは喉を震わせた。

「悪かったね」

 大蛇の鼻面を軽く爪で引っ掻くように撫でてやりながら、何に対してなのか謝罪をする。

「君の呪縛を解くのに時間がかかってしまって」

 混乱に紛れでもしなければ、気づかれてしまうかもしれない。

 決して、忘れてはいないのだ。

 己の状況というものを。

 この、大蛇がまだこれほどまでに大きくはない頃。

 あの聖なる都と呼ばれた古い王国を襲った災禍。

 原因が何なのか、痛いほどにヤヒロは知っている。

 清らかで穏やかな人々だった。

 様々な民族や異種族が差別されることなく、争いさえも少なく。

 異物として紛れ込んだものがなければ、あの都は今もまだ精華を営んでいるのかもしれない。

「彼のおかげでたくさんひとが来たからねぇ。君たちの腹も満たされたろうし。ほんと彼には感謝だねぇ」

 砂嵐に紛れずとも、ここを出て行けるだろう。

「彼らにお願いしてみようかなぁ」

 やっぱり、ひとを隠すはひとの中−−−だよね。

「こら。僕が………ひとかって?」

 つるりと大蛇がヤヒロに軽く巻きつく。

 鼻面を軽く拳で叩き、大蛇の胴にからだを預けた。

「ひとであったなら」

 ひとであったなら、この苦しみは疾(と)うに終わっていたものであろうに。

 心臓が握りつぶされるかのように痛んだ。

 その刹那、脳裏をよぎりかけた面影に本当に潰れてしまえばいいのに。

 そう強く願った。

 それは、叶うはずがないと最初からわかっているからの願いであったのかもしれない。





「お前、ついてくるか?」

 唐突な問いに、

「どこに?」

 間の抜けた問い返しになったなと思い、苦笑する。

「救ってもらった礼に我が国、我が城に滞在しないか?」

 洞窟の入り口の広間には旅装に身を包んだ兵士たちが並んでいる。

 外は砂嵐の音がとてもうるさい。

「嵐が止めば我らはここを出る。世話になった。だけに、お前をここに放置するのは、心が痛む。お前ひとりくらい、養える。好きなだけ滞在するがいい」

 尤も、この砂漠を抜けて戻ることができれば………だが。

 どうする?

「じゃあ、遠慮なく世話になるよ」

 よろしく−−−と、わずかな逡巡めいた時間ののちにヤヒロが口にした。

 では−−−と、手を延べるヴァルムに、

「ん?」

 首を傾げた。

 その時、剣の切っ先が地面を擦るような音がして、ヤヒロを覗く男たちが息を呑んだ。

 彼らの視線の先には、

「やぁ、どうしたんだい」

 これからお別れを言いに行こうかと。

 隘路を塞ぐかのように鎌首をもたげていた。

 ガラガラと音を立てて、隘路の石が割れ落ちる。

 ぐんっと急峻な坂道を下り降る速度と曲線を見せて、大蛇がその鼻面をヤヒロの顔の前に近づける。

 大の男たちが悲鳴を飲み込む。

 大きく空気を震わせたのは、大蛇が口を開く動作のためだった。

 赤い口の中には、黒い蛇の皮がぞろりととぐろを巻いてあった。

 少し湿ったそれを、

「くれるの?」

 ありがとう。

 拾い上げ、首に巻きつける。

「では、お返しになるかな? せめてもの僕の祝福を君と君の一族に」

 長くお邪魔をしてしまったねぇ。

「麗しの黒い姫。ここでおいとまを」

 ほんの少しおどけた風情で右手を胸に左足を引き、腰を折る。

 それに赤い先割れの舌をちろりと覗かせて、大蛇は器用に方向転換をした。

 大蛇の尻尾の先が隘路の闇に消えてゆくのを見送って、男たちの緊張が一気に溶け消える。

 ひとつ大きなため息を吐き、

「砂嵐も止んだようだ。頃合いだな」

 では、一路王都を目指す。

 ヴァルムの声に、おう! とばかりに騎士たちの声が揃った。





 こうして、ヤヒロを加えた一同は大蛇の住処であった洞窟を後にしたのである。






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