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「ぷるるんコーヒーゼリー」なんてタイトルの少女漫画が昔ありましたが。高橋千鶴さんだったかな?
写真は、最近作るのが癖になってるコーヒーゼリーです。砂糖抜きですけど。
粉末の元を1パックの半分に大体液400mlくらいでめちゃくちゃゆるいのができます。それが好き♪ 母にも好評のゆるさです。
と、まぁそんな感じです。
「はぐれびと」9回目を更新したのでこちらにアップしておきます。
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*** 恩 人 ***
「殿っ」
初老の男性が、血濡れた剣を鞘に戻し、その場に片膝をついた。
聖盃伝説でもあろうかというような夢物語めいた空間に、生臭い臭いが充満する。
累々と重なる狼藉者の亡骸が、その流す血が、地面を仄暗い怨嗟で埋め尽くすかの錯覚さえあった。
「お探し申し上げましたぞ」
皺深いしかし日に焼けてたくましいその謹厳な容貌に涙の筋さえくっきりと、ヴァルムを見上げた。
「爺、心配をかけた。皆も、大儀であった」
そのことばに、男の背後にやはり片膝をつき、こちらはこうべを垂れていた者たちが、顔を上げる。
口々に、閣下、若殿と、歓喜に満ちたその声が、不意に途切れた。
硬い何かが地面を擦るような音が、彼らの再会の喜びに水をさしたのだ。
ヴァルムはその音がなにか、すぐさま理解したが、他の者たちは、そうはいかない。
周囲を警戒する彼らの視線の先で繰り広げられている光景に、それが何か知っていたヴァルムでさえもが息を呑んだのだ。
どこにいたのか。
男たちの腕ほどの太さはゆうにある胴回りをした蛇が、事切れている者たちを飲み込み始めていたのだ。
その姿、まさに口縄と呼ばれるにふさわしい。
怖気を振るわずにはいられない光景に、思わず鞘走らせそうになる。
それに、
「悪いけれど、彼らの食事をとめないで欲しいなぁ」
間延びした、それでいて不思議に美しく響く声が、待ったをかけた。
「彼らは、死体を食べているだけだからねぇ」
殺さないでよね。
いつからそこにいたのかと、ひときわ巨大な黒い蛇の頭部に背もたれた男の存在に、ヴァルム以外が初めて気づいたのはその時だった。
「それに、彼らは、ヴァルム・ジャルディや………あなたたちを助けてくれてもいるんだよ」
無造作に口にされた姓名に、
「きさまっ!」
いくたりかが抜剣するのを、
「やめんかっ! 彼は俺の命の恩人だ」
ヴァルムが止める。
「いくら彼らが飢え渇きに強いとは言え、ね。たまの食事くらいはゆっくりとさせてあげてよねぇ」
喉の奥で鳩のような笑いを刻みながら、痩せて薄汚れた男は、大蛇の鱗をするりと撫でる。
それに怖気を覚えながら、
「本当ですか?」
まだ従卒といった身なりの若者が恐る恐る口にする。
「ああ。遅くなったが、彼は、死にかけていた俺を助けてくれた。名を、ヤヒロと言う」
一旦言葉を区切り、
「ヤヒロ、彼らは俺の部下だ」
大蛇の側から自分の方へと手を取り導く。
おそらく彼は自分が手を振るだけでここに来るだろうが、見えているか見えていないのかを説明することを面倒に感じ、避けたのだ。
「ヤヒロ殿、知らぬこととはいえ、申し訳ござらん。殿をお救いくださり、このジョルト、心より御礼を申し上げる」
副官であるのだろう、彼に続き、ティボル、シャーンドルと続き、従卒であるらしいパールがそれぞれ名を告げ礼を述べた。
どうやら彼ら四名がこの場にいるヴァルムの部下たち十五名の中心的人物であるらしい。
「これは、どういたしまして。別に礼を言われるようなことをした覚えはないのだけれど、あなたたちの本心からのことば確かに受け取ったよ」
飄々と彼らのことばを受け入れたヤヒロを、部下たちはそれとなく観察する。
痩せさらばえたみすぼらしい身なりの男だった。
目を患っているのか、見えていないのか、これまた薄汚れた布を巻きつけている。
ただ、そのみなりともあいまって身分も何も鑑みていないような無造作な受け答えであったにも関わらず、男に下品さを感じることはなかった。
それは、男の声のせいなのかもしれない。
いつまでも聞いていたいと思う、そんな滑らかで甘美な声音は、ここ幾日もの間、無骨なものばかりと相対してきていた彼らにとって、まさに甘露とも感じられるものであったのだ。
「それじゃあ、あなたたちは今からヴァルム・ジャルディを連れて戻るのだよねぇ」
「無論」
ジョルトの声に、
「その前に、彼になにか食べさせてあげるといいよ」
ここは少々生臭いかもしれないから、出口の方の広場でね。
何が面白いのかクスクスと笑いながら、ヤヒロが言う。
未だ大蛇たちは食事の真っ只中である。
それをヤヒロのことばに思い出す。途端、その怖気を振るわずにはおられない光景が目に飛び込んできた。
ゆるゆるとバケモノ蛇に飲み込まれてゆこうとしている死体。
それらが生ある時彼らの敵であったものであれ、それはあまりに酸鼻な光景と思えたのだ。
「ヤヒロどのは………」
込み上げてくるものを飲み下しながら、ジョルトが訊ねれば、
「僕はいいよ。ここで彼らといるから」
言って口角を引き上げる。
それを見て、ヤヒロの鼻から口にかけての造作が整っていることに初めてジョルトは気づいた。
ひときわ巨大な蛇が敵であったものを咥えた。それを見て、
「わかり申した。殿、我らはあちらで腹を満たしましょうぞ」
ヴァルムを促した。