いつもご来訪ありがとうございます。
ほぼ2年ぶりに「散華月」に手をつけました。が、主人公が絶望してるので原稿用紙2枚ないくらい。短すぎるが、描いてる方が疲れるのでorz
このGWは結構創作に勤しみましたよ。
「黄泉戸喫」の続きもほぼ1年ぶりに手をつけましたしね。こちらは主人公が出ない。うん。ヴェンツェルに挑戦したんですよね〜。脳筋予定の光の支配者(神だがな)だったりするんですが、苛烈なはずがちょっと甘ちゃんになっちゃた。もっとスパッと女性を切り捨てられるタイプのはずだったんですけどほだされてやんのvv ま、いいですけど。ちょっと設定が狂った箇所があって、どうしようかなと。
喉風邪から鼻風邪になって、今お腹もちょっと影響受けてますが。鼻が詰まったり垂れたり………xx 2週間は引きずる覚悟してたんだけど、ちょっとやばいなぁ。しんどいんですよね。
や、花粉症ではないです。混同はしてませんが。しんどい。
ともあれ以下「散華月」** 絶 望 **
薄暗い視界に、漂うように迫るオースティンの姿があった。
それを見た途端、こみ上げた怒りが萎んでゆく。
取って代わったのは、怯えだった。
姫宮はただ震える。
ただ怯えてそれを見る。
逃げることなど考えもつかなかった。
目の前に、青白い幽鬼の顔がある。
目を瞑ることさえも恐ろしくてできず、姫宮はただその生気のない顔を視界に映していた。
どれくらいそうしていただろう。
かわいそうに………と、オースティンのくちびるが動いた。
音なく脳裏に紡がれたその声に、姫宮が大きく震えた。
霜を宿した掌が、しゃりしゃりとした冷たさをまとったまま頬を両側から挟み込む。
冷たさに熱を奪われてゆく。
このまま………。
そうなのか。
なにがそうなのか形にすることができないままに、それまでの恐怖を忘れてただぼんやりとそれを見返した。
−−−かわいそうに。
それしかしゃべることができない人形のように、オースティンが繰り返す。
静かに、音もなく、まるで雪のようにしんしんと脳裏を埋め尽くしてゆく。
お前の望みは………と、冷え切った頭に浮かび上がったそれを、言葉にする前にオースティンが笑った。
「いいさ。好きにすればいい」
生者には不可能だろう、怖気立つようなその笑みに、もはや鳥肌が立つことさえなかった。
「おまえも、あいつも、親父もっ」
みんな好きにすればいいんだ。
魂消るような叫びに、オースティンが姫宮を抱きしめる。
かわいそうにと囁きを形作るそのくちびるは、しかし、歪な歓喜を宿していた。
***** 短すぎる。
ともあれ、次は「黄泉戸喫」** 占い女 **
「ふん」
鼻を鳴らし周囲を確認する。
花々の咲き乱れる美しい庭園の只中に、神殿のような建物がその瀟洒な姿を見せている。
太い列柱がずらりと並び天井を支えるその建築様式は、まさに古い神々が暮らすにふさわしい場所であるだろう。
「変わらんな」
ヴェンツェルが石段に足をかけた。
「お帰りなさいませ」
落ち着いた声に視線を上げたヴェンツェルは、そこにひとりの女性を見出した。
「ヘドヴィグか。久しいな」
褐色の髪に同色の瞳の落ち着いた印象の女性だった。
からだの線に沿ってさらりとなだらかなドレープを見せる着衣は、ヴェンツェルの纏う貫頭衣と対のもののように見えるが、材質の違いが際立つ。いかにも上等な絹織物である。
「皆息災か」
「はい」
「それは重畳」
「主さまもご無事で」
「我に何が起きよう」
おおどかに笑いながら石畳を登る。その悠然としたさまに、ヘドヴィグの頬にかすかな血の色が宿る。
創世神の一柱たる威容に、彼に仕えることを許された己が僥倖に、彼女の全身が火照る。
「お湯殿を? それとも何かお召し上がりになられますか?」
火照りを鎮めようと、己の職務へとたち戻る。そんなヘドヴィグに、
「女たちを集めてくれ」
どこにとも言わず放たれた命に、逡巡することなく、彼女は諾なった。
長らく不在の主ではあれ、彼のことばを間違いなく受け止めることができる。
広い城のあちらこちらで主不在の日々をただ彼を待つことで潰していたものたちが、彼の気配に姿を現わす。
喜色に満ちたものたちを、ヘドヴィグは主が望む場所へと導いた。
百を下らぬ女性たちの脂粉の香りが、主の望むその場に満ちる。
城の中心に位置するその広間の窓辺にヴェンツェルが陣取る。
腰高の窓枠に腰を下ろし、足を組む。
その男らしい額を彩る辰砂の髪が、風に揺れる。かすかにはためく貫頭衣から、かいま見える胸元に、たくましい足に、全身に、彼女たちが待ち望んだ主の存在感に、三々五々集まった女性たちの全員の意識が向かう。
たとえ簡素な貫頭衣を腰帯で括っただけの姿であれ、一柱の威厳が損なわれるはずもない。
より一層その存在の尊さが、際立つというものだ。
おどおどと最後に現れた、小さなものがヴェンツェルに高杯を掲げ上げる。
それを取り上げ喉を潤した彼が開いた口から放たれたそれに、女たちの口が驚きに開かれ、やがて絶望の悲鳴がこぼれ落ちた。
あまりにもあっさりと、なんら躊躇を見せもせぬ神らしい無造作さで、ヴェンツェルは言い放ったのだ。
思いもよらぬ主のことばに最初に現実に立ち戻ったのはヘドヴィグだった。
「我らはもう要らぬと、そう仰せられましたでしょうか」
毅然とした声だった。
悲嘆と絶望とに満ちた広間の中、彼女の声は硬く重々しく響いた。
「閨の相手はもう要らぬと、そう言ったのだ」
むざむざとここで無聊(ぶりょう)を託(かこ)つつもりか。
「では、閨以外でお仕えすることなればお許しいただけるということでよろしいのでしょうか」
少しずつ泣き声が小さくなってゆく。
「そなたらになにができる」
城の管理ならば男たちがいるが、本当のところはいなくてもなんら不都合はないのだ。
ヴァルェグバンドガルは、かつての彼らのからだを核に創り上げた小世界である。容易く変化しないよう固めてあるとはいえ、彼らの思考や嗜好に従う。そこに造った城ならばより一層のこと縦(ほしいまま)となる。
なぜこんなにも人間やフェルニゲシュがこの場にいるのかといえば、彼らに仕えることを望むものたちが多く煩わしいというただそれだけのことにすぎない。
女たちは、ヴェンツェルが気に入り閨の相手として招き入れたものではあるのだが。それ以外は、これ以上煩わされたくないため望んだ者たちから厳選して受け入れたフェルニゲシュである。
言下に切り捨てることさえも見捨てることさえもできる彼ではあったが、永く彼らに仕えたいと望んできたフェルニゲシュたちまでもを粗雑に扱うのには少しばかりの罪悪感があった。
この世界を創る以前からの絆めいたものが、細くとはいえ確かにあるのだ。
それに、彼らは増えはしないが、減ることもない。人間であれば瞬く間に死を迎え彼を置き去りにしてしまうが、それがないのである。
−−−我らだけではさすがに飽きる。
これは、ラドカーンの言であったろうか。
「掃除でもなんでもいたします」
そう叫ぶように言ったのは、広間の隅、ヴェンツェルから遠い場所にいた年若く見える女である。
「料理も覚えます」
「庭仕事も」
「なんでもいたします」
次々と上がる声に、
「主さまはお忘れでございますか?」
ヘドヴィグが悲しそうに言った。
「私どもは人間でございます。主さまのお情けによって老いや死から免れておりますが、短い者でもこの地ですでに数十年を過ごしております。長い者では数百、数千を数える者も。そんな者たちがここを出てしまえばどうなるか」
たちまち塵と散じてしまいましょう。
そうでなくとも、知人のいない世で生きるのは辛いものでございます。
息を呑むような悲鳴が広間の空気をひび割れさせた。
「今声を上げている者は、長く主さまにお仕えさせていただいた者たちばかりでございます」
どうか、今少しのお情けをいただけませんでしょうか。
「わかった」
ヘドヴィグのことばに、ヴェンツェルは己が深く考えもせず気軽に手折ってきた女たちを見渡した。
彼好みの、肉感的な姿が目立つ。が、中には肉付きの薄い少年のような女もいる。
「少し簡単に考えすぎていたか」
ヴェンツェルの胸に後悔めいた感情が芽生えた。
首を振るヴェンツェルの動きに連れて辰砂の髪が炎のように揺れた。
***** ね。甘ちゃんでしょ。ううむ。おおらかなんだけど切るものは切り捨てられるタイプだったんですけどね〜。それをいうならラドカーンも似たようなもんになってるしなぁ。オーロイレだけかな? もっとも、彼の場合は囲ってないので。彼らは本一個体の文体みたいなもんなんで、根本的には一緒なんだけど、長く文体として生きてたから正確に違いが出てきたんだろうなぁ。ということにしておこう。
少しでも楽しんでくださると嬉しいな。
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