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2016/04
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ぶち切り
 いつもご来訪ありがとうございます。

 いや〜ストレスマックスぶち切りかもしれないうお里です。
 いえ、生々しくて申し訳ないですが。
 今朝、もしかしたら、下血したかもしれません。まぁ、女性週間かもしれないんですが、まだ確定できていない。結構鮮やかな血だったしなぁ。ま、ストレス溜まってるからなぁ。血尿ならまだ納得なんだけどね。いきなりそっちかorz

 そんなこんなで、ストレスを登場人物にぶつけていじめてしまいました。ごめんね〜。
 しかも随分前に完結したはずの”in the soup”です。
 もう覚えてる人いないだろうなぁ。
 これのオリジナルバージョンで主人公をいじめてしまった。
 そんなわけで、まぁ、名前が変わってますが、そういやそんな話があったなって程度で。
 一応ここにアップしときます。

*****






*** Last Cognition ***







 音が先だったのか。

 臭いがか。

 におい。

 決して”匂い”などではなく、”臭い”だった。

 その臭いが何かを呼び覚ます。

 そう。

 音と臭いのふたつが合わさることで、とても不快な、恐ろしいものを呼び起こした。

 それは、オレの心を揺り動かすものだった。

 だから、オレは目覚めたのだろう。

 けれど、それは、決して、いい目覚めなどではなかった。

 白くうすぼんやりとした視界は痛みを伴い、見えているのかどうか不安を覚えるものだった。

 視界を圧倒する光の洪水が、オレの目を痛くさせているものの正体だったろう。

 それは、とても。

 とても久しぶりの光のように思えた。





*****





「髪を整えてくれ」

 どこか空虚な雰囲気の漂う室内だった。

 四十に手が届くだろうか、苦みばしった美貌の男が窓辺に佇んだまま指示を下した。

「かしこまりました」

 応えるのは三十は過ぎているだろう年頃の男である。準備されたテーブルの上、敷かれたクロスに揃えられたのは、散髪用の道具に見える。

 黒漆の鈍い光を宿す鏡台に向かうように配置された、鏡台と同じ材質の椅子に座るのは、褐色の髪のまだ若い、少年のような若者だった。うなだれ気味の顔は半ばを前髪に隠され、その奥で薄く開かれた瞼の下、黒い瞳には生気のかけらすら伺えなかった。

 美容師が若者にケープをかけ、ブラシが、櫛が、小気味よく髪をくしけずってゆく。

 肩に掛かるほどに伸びた褐色の髪は思い思いの方向に飛び跳ねている。

 エンリケは窓辺からそのさまを眺めていた。

 自然、胸の前で組んだ腕はそのまま、美容師の動きに連れてゆらゆらと揺れる湊を見つめる。

 痩せた。

 それが、正直な感想だった。

 ケープの下に隠された湊の肢体を誰よりも、湊本人よりすらも知っているのは、ほかならぬ彼だけである。

 今朝方まで彼の腕の中にあった、シルクめいた肌触りの体毛の薄い皮膚の手触りを思い返す。

 湊をエンリケの実の父から奪い、二年が過ぎようとしていた。

 骨が目立つようになってきた四肢は、決して抱き心地が好いとは言えないものではあったが、それでも、エンリケにとってはこの上なくかけがえのないものであったのだ。

 失いたくない。

「誰にもわたしはしない………」

 思わず溢れたことばに、美容誌は気づいてはいない。ただ熱心に湊の髪を切っているだけである。

 本当ならば、自分で整えたいところなのだ。

 いつも、思う。

 しかし。

 残念なことに、エンリケにはそのスキルがない。

 一度だけ、どうしても他人に触れさせたくないという思いが高じ、湊の伸びた前髪を整えようとして、その額を傷つけそうになった。

 それ以来、湊の散髪は美容師に任せるようにしている。

 わずかの傷さえも、湊に負わせたくはなかったのだ。

 腕は保証付きである。

 身元も確かである。

 しかし、それでも、ふたりから目を離すことはできないでいた。

 湊を見、その髪に、頭に、触れている。湊の甘やかな体臭を身近に嗅いでいるのだと思えば、どうしようもない嫉妬が鎌首をもたげるのだ。

 それだけで、その目をえぐり、腕を断ち、鼻を削ぎ落としたいという思いが湧いてくる。

 この狂うほどの感情に、目が眩む。

 どうして、彼なのか。

 なぜ、湊でなければならなかったのか。

 父親に対する意趣返しであったのなら、もしくは、父が愛したものを自分も愛したいというだけの思いであったのなら、父の死と共にこの想いは消えていたかもしれない。

 しかし、そうではなかったのだ。

 なぜなのかは、わからない。

 かわいそうだと、柄にもなく感じたことが、はじまりだった。

 湊がいなければ、彼を哀れと思わなければ、今の自分はいない。

 恋に狂った、愚かな男は存在しなかった。

 新世界の暗黒、その帝王と呼ばれる己は、存在しなかった。

 そう。
 ふっと、エンリケの口角が持ち上がる。

 まるでガラス越しの陽光の中に落ちたひとしずくの闇めいたその笑みを、美容師が目にすることはなかった。



 すき挟みがリズミカルな音を奏でる。

 たゆむことないその音が、ふと止まる。

 窓枠に背もたれていたエンリケが湊から視線を美容師へと移す。

「終わったのか?」

「いいえ。少し確認を願います」

 すき挟みをテーブルに置き、何かを思案するように手を彷徨わせる。

「珍しいな」

 いつもは何事もエンリケに要請することなく仕事を終える美容師の要求に、窓枠から背中を離し、近づく。

「こちらなのですが」

 湊の右肩寄りへと移動し、彼のうなじの毛をかすかに掻き上げ、エンリケを促す。

「なんだ」

 カチャリと耳に届いた金属音の孕む剣呑さに、エンリケが素早く態勢を返しかけ、その場に縫い付けられる。



 軽い、冗談のような破裂音が響いた。



「っ」

 衝撃に、声が喉から押し出される。

 即座に身を翻さなかったのは、すぐそこに、湊がいるからだった。

 美容師の、彼の右肩を貫いた拳銃を持つのとは逆の手には、白く輝く剃刀が握られていた。

 そうして。

 剃刀の刃は、過つことさえなく、湊の喉元に当てられていたからである。

 エンリケの常には理知的な双眸が大きく見開かれる。

「動かないでください」

 懇願するかの声だった。

「そうでなければ、この少年の首を」

 泣きそうな声で言い終えることはできなかった。



「湊さんっ」



 その瞬間を、エンリケがどんな表情をして迎えたのか。

 暗黒の帝王と呼ばれるその男の泣き笑いのような表情を唯一目撃したこの美容師が、その短い一生でそれを忘れることは不可能であったろう。

 無くしたものを思いもよらぬ場所で取り戻すことができたかのような。

 また、それをすぐに失うのではないかと危惧するかのような。

 その喪失を現実のものとして捉えざるを得ない状況を理解し愕然となっている男の表情を。



「湊さんっ、動かないでください」



 また、その男の絶望と希望とが入り混じった悲鳴のような声を。



 そうして。



 そうして、男の絶望こそが現実となった、その刹那を。







*****





 とても眩しくて、顔を背けた。

 刹那、冷たい熱のようなものが喉元をかすめた気がしたが、気にしなかった。

 光から目を逸らした先に、彼がいたからだ。

「湊さんっ」

と。

 青ざめた表情でオレを諌めるその男が誰か。

 ほんの少しだけ老けたような気のするその顔に、あの男の面影が被って見えた気がした。

 認めた途端、血が引く心地がした。

 あの男は、死んだのだ。

 オレを濡らすあの男の血の温かさを、命を失くしてしまった器の重さを、覚えていた。

 オレは、刹那もかからず、全てを理解していた。

 なぜだろう。

 オレは、これまで、自分自身で意識を閉ざしていたのだ。

 恐ろしいモノ全てから逃げ出してしまいたくて。

 逃げていればそれでいいと、己を欺瞞で包み込んで。

 それで全てが解決するはずもないというのに。

 わかっているからこそ、即座に、血が冷たくなった。

 あの男との最後の時に、俺の心にあった形にならない感情を思い出す。

 それは、目の前の男に対するものと重なるようなもので。

 いつだったか、消えてしまったオレの片割れの感情の名残なのかも知れなかった。

 けれども。

 オレだとて、決して嫌いではなかったのだ。

 彼がいてくれて安心できた。

 熱帯魚を眺めながらいつしか眠ってしまったあの夜、崩壊の始まりだったろうあの時の静謐さを、思い出す。

 彼の肩に頭を預けて、頭を撫でてくれる手の感触にこの上ない安堵を覚えていたというのに。

 なのに。

 オレを裏切った。

 彼もまた、あの男と同じものだったのだと。

 オレをただ、女のように抱きたいと思っていたのだと。

 あの時の絶望を、彼は、知らないだろう。

 どれほど言葉を尽くしたとて、理解できないだろう。

 理解されない絶望があることを。

 最後の最後で、彼を嫌いきることができないでいるオレの、理解できない感情を。

 それは、あの男に対するものと同じようなもので、オレを苦しめる。

 怖くてたまらない相手なのに。

 嫌ってしまうことさえできない理不尽なオレ自身の感情も、オレを苦しめる。

 愛してなどいない。

 決して。

 愛なんかじゃない。

 それなのに。

「湊さんっ、動かないでください」

と、なおも畳み掛けるように言い募ってくるエンリケの言葉に、オレはようやく状況を理解する。

 ささやかなものの神経をささくれ立たせる間断ない痛みの原因が何なのか。それが未だにオレの首を捉えていることを。

 エンリケの右肩から滲む血の赤がどうしてなのか。

 オレの背後に、オレの喉に刃物を押し当てて引き寄せている男がいることを。

 男の逆の手が握る拳銃がオレの意識を目覚めさせたことを。

 この国にさえ来なければ、おそらくは一生知らずに済んだろう、鉄の塊がひとを傷つける時の、音と臭い。

 それがオレを、オレの逃避を、粉々に打ち砕いたのだ。



 なぜだろう?



 目覚めなければ、エンリケは死んでいただろうに。

 あの男と同じように、血にまみれて、魂の入れ物だけを残して。



 なぜだろう?



 イヤだと、殺されてほしくないと、思ってしまうのは。



 震える銃口が、エンリケを捉えて離さない。

 オレの喉元には剃刀の刃が当てられたまま、剣呑に光っている。

 とてもうるさく、オレの心臓が鳴っているのがわかった。



 少しでも動けば、多分−−−−−。

 それがわかっていても、オレは。

「湊さんっ」





*****





「湊さんっ」

 エンリケの悲鳴染みた叫び声が、部屋を弄するほどの大きさで放たれた。

 動くなと。

 懇願したというのに。

 なぜ。

 両の目から涙が溢れていることに、エンリケは気づかなかった。

 この自分が、拳銃を隠し持っていないはずがないではないか。

 それとも、世界に冠たる平和な国で生まれ育った湊には、思いつくことではなかったのか。

 自分はただ、美容師が湊を傷つけることがないようにと、ただそれだけを願っていたというのに。

「どうしてです」

 わずかの逡巡すらなく美容師を撃ち抜き、エンリケが湊を抱き寄せる。

「どうして私をこんなにも苦しめるのです」

 己がどれだけのことをこの少年に強いてきたか、自覚していてさえ糾弾せずにはいられなかった。

 溢れていた涙が、少年の頬を濡らす。

 痛々しいまでに大きく開いた傷口が、エンリケの視界を朱に染める。

 耳障りの悪い水音をたてて、湊が口を開いた。

「おあいこ………だなぁ………………」

 痩せた手が、エンリケの頬に血の跡を残して滑って落ちた。

「おあいこ? そんなはずないじゃありませんか!」

「目を開けてください。開けなさいっ」

 とりすがっても、振りたてても、もはや、愛しいものは目を開けることはない。

 わかっていて、止めることができなかった。







 長く感じながらほんの数分もない間の出来事に、遅ればせながら駆けつけてきた家人が見たものは、狂ったように湊を掻き口説くエンリケの姿だった。







*****とまぁ、これでおしまいなんですけどね。
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