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2012/12
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ブラコンなんです 9
 いつもご来訪&拍手ありがとうございます♪

 ブラコン〜このところのユーベルは、甘いですvv







※ ※ ※ ※ ※







 両親であったものたちの出発を見届け、ユーベルは踵を返す。

 昨日の今日では、まだ疲れているだろう。

 廊下を歩くユーベルの表情は、誰もを惹きつけずにはおかないだろう笑みをたたえていた。

 ゆっくりと扉を開く。

 そこに彼の焦がれつづける“兄”の姿を見出す。

「兄さま。散歩に行きましょう」

 長く伸ばした黒い髪を瞳と同じ紫紺の絹で束ね、ゆったりとしたドレープが美しい藤色のシャツの上に金の縁取りのある白いジャケットを重ね着しているすらりと丈高い青年の姿に、飴色の椅子に腰をかけていた若者はほんの少しだけ強張りをといた。

 しかし、窓辺の椅子から立ち上がる気配を見せない。

 それに、ユーベルの整った顔が、すぐにはそれと知れない苛立ちを刻んだ。

「兄さま。もう、父様も母様も出立しましたよ。だいじょうぶ。兄さまを咎めるひとはいません」

 声に苛立ちを表わさないように気をつけながら、ゆっくりとくちびるを動かす。

 それに返すように、若者が首を左右に振った。

 窓に額を当てる。

 これでは、若者が彼のくちびるを読むことはできない。

 彼を意識から押し出すかのようなメルロッサの態度であっても、ユーベルにとって、それは至福に満ちた一幅の絵画だった。

「あなたは、私の、私だけの星なのですよ。兄さま」

 聞こえることのない告白を、ユーベルはつぶやいた。

 彼の傍らに膝まづき、驚かせることのないようにそっと手を握り締める。

 突然の感触に、メルロッサは震えた。

 それに心配はないのだと笑んでみせ、

「なにか欲しいものはありませんか」

 懐かしい褐色の双眸を覗き込む。

 首を振りかけたメルロッサが、ふとなにかを思いついたかのようにユーベルを見た。

 椅子から立ち上がり、よろける。

「危ないですよ」

 今度、杖を用意しましょう。

 軽くて丈夫な、兄さまによく似合う杖を。

 メルロッサのくちびるが彼の名を呼んだ。

「はい」

 自然くちびるがほころぶ。

「パンとソーセージ」

「お腹がすいたのですか?」

 首を左右に振る。

「地下に行く」

「地下にパンとソーセージを持って?」

 首を傾げる。

 そんなユーベルの袖を、メルロッサは引っ張った。

「こういうことでしたか」

 ネズミが足下で千切られたパンとソーセージに集まっている。

 群れから外れた黒いネズミがメルロッサの足をよじ登った。

 漆黒の毛並みと同じ目の色。尾と四肢の先だけが剥き出しの肌の色をしている。

 ほかのネズミたちとは、あきらかに異質だった。

 その胆力もだ。

 メルロッサの差し出した両の掌の上で、別に取り分けられていたソーセージを齧りはじめる。

「この十年、これたちが、特にそれが、兄さまの救いだったのですね」

 ならば、報いましょう。

 兄さまを孤独から救ってくださった。

 兄さまを狂気から遠ざけてくださった。

 それだけで充分です。
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