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2007/12
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悪魔と踊れ 5
 ちょこっとだけ過ぎて、まことに申し訳ないxx ですが。
 思うとおりに創作できない今日この頃。すみません。
 少しでも楽しんでいただけると、助かります。







 
 そんなに自分を抑えるのがつらいなら、司教の世話はほかのものにまかせようか。

 ユージーンのことばに首を横に振ったのは、ジュール自身だった。それでも、足が重くなるのは仕方がない



 相手は、何よりも憎んでやまない相手なのだ。

 いっそ、ユージーンに従えばよかったのかもしれない。

 手が震える。

 全身が震えてならない。

 それらを抑えて、へらりとした笑いを顔に貼り付けるのは、結構、きつい。

 けれど、あまりにも憎すぎて、誰かに任せることも、できないのだ。

 エメラルドの中に閉じ込められたような一角獣をみやる。タピスリーの中で、色とりどりの花々と黄色い蕊

が、真っ白い伝説の獣を彩っている。

 ゆらゆらとかすかに揺れるタピスリーから、愛しいひとたちの悲鳴が怨嗟の啜り泣きが、聞こえてくる。



 憎い。

 辛い。

 痛い。

 寒い。

 熱い。

 苦しい。

 助けて。

 助けて。

 助けて。

「もうすぐだから………」

 もうすぐ、その苦しみから、解放してもらえるから。

 何十年もかかって、それでも少しも癒えることがない無限の苦痛は、まさに地獄以外のなにものでもない。



 母に姉、それに、幼い妹。

 血の繋がってはいない、それでも、かけがえのない、家族。

 彼女たちを救うことができるなら、なにをしても、なにをされても、かまわない。

 だから、自分は、悪魔に魂を売り渡した。

 あんなにも、厭いつづけた、あの存在に。

 悪魔と最初に出会ったのは、いつだったろう。

 ラウルが、ユージーンと出会うよりは、まえのことだ。

 そう。

 ジュールは、ラウルがユージーンと出会ったときのことを、知っている。

 羨ましいと、思ったものだ。

 穏やかそうな優しそうな、美しい男が、ただ、ラウルひとりを欲しいと思っている。

 それに引き換え自分は、どんなに好きになっても、最後の最後、彼女たちは、去ってゆく。

 流れ者の生活は自分には無理だから―――――と、彼女たちは、首を横に振る。

 くちづけだけを残して、彼女たちは去ってゆくのだ。

 遠ざかる後ろ姿を見送るジュールの耳元に、低い笑い声が、響く。

 耳に届くその声に、ジュールの背中に、粟が立つ。

 冷や汗が、滴り落ちる。

 震えが、止まらない。

 見るまでもない。

 闇をまとったような、いや、違う。闇を従えたような男がひとり、背後に佇んでいるのだ。

『振られたな――――』

 面白そうに嘯きながらも、その目は、決して笑ってはいないだろう。

『いいかげん、私を受け入れればどうだ』

 言われて、ジュールは首を振る。かたくなに背中を向けたままで。

『誰がっ』

 顔も見ずに、吐き捨てた。

 背中で、全身で、ひしひしと感じる男の存在が、ひときわ強くなる。

 押されるように一歩踏み出そうとしたその時、ジュールの肩を男が掴んだ。

 白い、力仕事とは無縁だろう手を、ジュールは振り払うことすら出来ず、男と対峙させられていた。

『私の我慢にも、限界がある』

 顔をあお向けられて、目を覗き込まれた。

 黒曜石よりも黒い瞳のその奥に、赤い熾き火が見えるような気がした。

『このくちびるを、私以外のものに、触れさせたのか』

 親指の腹でなぞられて、背中に震えが走る。

『イヤダ――』

『オレは、あんたのものじゃないっ!』

 叫んで、突き放す。

『いいや』

 いっそ穏やかに笑んで、男は、

『お前は、私のものだよ。私を魅せた刹那に、そう決まった』

 ジュールを絶望へと突き落とす。

 背中を這う男の手の感触が、ジュールを、慄かせる。

 出会いの初めから、男は容赦なくジュールを苛んだ。まるで、肉体に自分という存在を刻み込ませるかのよ

うに。

 噛み締めたくちびるから、いつしか生まれはじめるのは、ジュールの意思とは相反する喘ぎの声だった。



 


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