fc2ブログ
2007/11
≪10  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30   12≫
悪魔と踊れ 4
 じ、実は、前回の「悪魔~」は3回目でしたxx で、今直してきたので、堂々と4と明記できますねっvv
 さてさて、お、終わらん! と、喚きながら頭を抱えております。
 終わんないんですよっ!
 もっとさくさく終わるはずだったのに、みょうにジュール君が自己主張してくれまして。こ、これは、やっぱ、彼(わはは、これまで2回しか出ていないっつーのに)とくっつけるしかないんでしょうかね。二次創作変換後を見据えちゃったからか、微妙に内容が変わってきそうです。
 それでは、少しでも楽しんでいただけると、嬉しいんですが。



「ひぃっ」

 小さな、子供の手だった。

 振り払う。

 肉の重みを思わせる音が、生々しい。

 関節が外れ、骨も砕け、腱も断たれたのだろう、肩からだらりと伸びた腕。いや、腕だけではない。小さな子供の全身が、だらりと、伸びて、床の上を、這っている。まるで血まみれの巨大な蛇のようなその姿に、

「う、うわぁっ」

 司教は、顔を覆った。

 足元になにか冷たいものが触れた。確かめる決意もないまま、司教が震える。それは、ひどくゆっくりと、司教のからだを伝わり上ろうとする。

「ゆ、許してくれっ」

 言いのけざま、司教は、それを蹴飛ばし振り払い、走り出す。

 泣き叫ぶ幼児を、上下に引き伸ばす拷問具に架けたことを思い出しながら。

 熱湯に浸けた、全裸の女。その悲鳴。

 舌を抜かれた女の、血の涙。

 足を砕く拷問具に架けられた少年の、自分を睨む生意気な目。それを見たくないばかりに刳り貫かせた二個の眼球。

 自分を惑わせた少年の爪を一本一本剥ぎ、指を砕き、腱を断つ。痛覚を責め、自白を誘った。

 魔女だと。

 半ば狂ったうつろな褐色のまなざし。

 ぼんやりと自分を見てすらいないだろう目を覗き込みながらの問いに、ただうなづくその少年は、何も判ってなどいなかっただろう。

 それを、十字架に架けた。

 群集が投擲する石が、少年の肉を裂き、新たな血を流させた。

 ただ苦しげに呻くだけの少年を殺すのに、火を放つことなど、造作もないことだった。

 魔女のしるしを持つ少年を殺すのに、躊躇などあろうはずもない。

 苦しみを最大限に引き伸ばされ、苦しみもがいて死んでゆく少年を見ることに、ためらいなどありはしない。

 魔女に惑わされたことをないことにできるなら。

 魔女が、自分を惑わしたのだ。だから、自分は、少年に手を出す振りをし、そうして、そのたくらみを破ったのだ。だから、これは、正当な報いである。

 そういうふうに、修道院の記録には記されるだろう。

 魔女のたくらみを打ち破ったものとして、位が一つくらいは上がるかもしれない。上がらなくとも、法王の覚えがめでたくなるかもしれない。



 しかし――――



 現実は、逆だった。

 身の毛もよだつ悪魔の出現によって、修道院は炎上し、修道騎士は皆殺しにされた。あまつさえ、少年、いや、魔女に石を投げつけたものは、殺された。笑って見物していた群集は、皆、何らかの報いを受け、挙句、あの地は、ひとが住める土地ではなくなったのだ。ひとりふたり、ひとは地を去り、生き延びた修道士は、別の修道院に受け入れられた。けれども。自分は、そのために、罰を受けたのだ。位を司祭へと落とされ、一からのやり直し。何十年もかけて、やっと、今の地位に返り咲けたのだ。そうしての、新天地への赴任だったのに。

 だというのに、これは、なんだ。

 なんだというのだ。

 きれいに整えたトンスラを乱しながら、司教は、闇雲に、廊下を走った。

 誰も出てこない。

 自分の悲鳴と足音だけが、あまた怨嗟の声に混じる。

 気が狂いそうだった。

 どこでもいい。

 この悪夢から逃げ出すことができるなら。

 行き止まりにぶつかり、司教は泣き喚きながら、周囲を手探る。手に触れたそれを救いとばかりに、必死に捻り、開いた。開いて走り、またぶつかる。ぶつかったものを開き、そうしてまた。幾度繰り返したのか。ついに司教は息を切らして、その場に、蹲った。





 途端―――――――





 馥郁とした薔薇のかおりが鼻を満たし、怨嗟の声が、ぴたりと止んだ。

 しかし、司教は、それには気づいてはいなかった。

 ただ、後ろ手に開いたドアを閉め、その場に蹲っていたのだ。

「ひっ」

 肩に触れてくる手を払った。

 そのリアルな感触に、数瞬後、我に返る。

 目の前に立つのは、やわらかな笑みをたたえた、白い美貌。

「どうなさいました」

 丁重なテノールに、

「あ、いや、その……」

 着衣の埃を払いながら、立ち上がる。

 先までの出来事がまるで夢であったかのようで、足元がぐらついた。

 しかし、覚えている。絡みつく怨嗟の声も、這い上がってこようとした、冷たい手も。

 ぶるりと全身を震わせ、

「あのタピスリーは、なんですかな」

 かすれそうになる声で、なんとか、訊ねた。

「はい?」

 かすかに首をかしげ、面白そうに自分を見下ろしてくる琥珀のまなざしに、なにかがじわりと湧き上がる。

「あれですよ。廊下の壁一面にかけられている、あの趣味の悪い」

 相手が王族かもしれないことなどこの際、関係なかった。

「趣味の悪いタピスリーですか?」

 相変わらず楽しげな声のトーンに、

「あ、んな、宗教裁判のタピスリーなど趣味を疑いますな」

 一気に言ってのける。

 と、

 クスクスと笑い声が、城主の口から零れ落ちた。

「な、なにがおかしいのです」

「い、いえ。あなたがあまりにおかしなことを言うものですから」

 言いざま、城主が、ドアを開いた。
 
 司教が止める間もありはしなかった。

 しかし、ドアの外にあるのは、壁面を書物で覆われた、書斎だった。

「居間に来るには、この部屋の前にある控えの間を、通り抜けなければならないのですよ。そうして、これが、廊下に直接通じている扉です」

 繊細な手が、重いドアをいとも無造作に開け放つ。

 そこに広がる光景に、

「そんなばかなっ」

 司祭は、うめき声を上げたのだった。

 嵐のため締め切られた窓がずらりと並ぶ反対側の壁にかけられているタピスリーは、異教徒的な意匠のアラベスクで縁取られたユニコーンやグリフィンなど、明るい色彩で織り出された神話の世界が、蜀台の明かりに揺らめいている。

「私が庇護している職人たちの手によるものです。すばらしい物でしょう。これよりすばらしいものは、あとしばらくの間、現われないといっても過言ではありませんよ」

「こ、これはいったい」

「司教さんはお疲れのようですね。まだ嵐はやむ気配がありません。そうですね、先ほどの部屋で、ワインなどいかがです」

「は、はぁ」

 毒気を抜かれた司教が、城主に背中を押されて、きびすを返した。

 とたん、ざわりと、タピスリーが波打つ。

 血があふれ、糸を引き、ユニコーンやグリフィンが解け崩れてゆく。

 それに、

「しーっ」

と、人差し指を立てて、城主が一瞥を投げかけた。

 ぴたり。

 タピスリーの不穏なざわめきが止まり、解け崩れたはずの幻獣が、元の姿を取りもどす。

 それらを確認して、城主は、しずかに扉を閉ざした。







「司教をまだあのままにしておくつもりなんですか」

 ジュールの口調からは、穏やかさは微塵も感じられない。

「不服か」

「もちろん」

 この、人ならざる者は、自分の胸のうちなどわかっていよう。そうして、自分の弟の胸のうちだとて。なのに、なぜ。司教に穏やかに接するのに、自分がどれだけの苦痛を味わっているか。この手で縊り殺してやりたい欲望を抑えるのに、どれだけの自制心を必要としていることか。すべてわかっていながら、どうして、

「なぜ、そんなに平然としているんです」

 デキャンタからワインをゴブレットに注ぎ、手渡す。

 白い手が、優雅にゴブレットを受け取る。

「ラウルを愛しているんでしょう」

 喉が反り、滑らかなカーブを描いた。喉仏がひとつ、ゆっくりと、震えるように上下する。

「なによりも」

 琥珀のまなざしが、かすかに、潤んでいる。

「なら、いったい。なにを考えているんです」

「待っているんだ」

「なにを」

「司教に対する全ての恨みが揃うのを」

 そのことばに、ジュールが、目を見開いた。

「揃ったときにこそ、お前たちの、いや、私の念願がかなうときだ」

 単に死なせるだけでは、溜飲は下がらないだろう?

 歌うように楽しげに告げる城主、ユージーンの言葉に、ジュールは、かすかに青ざめた。

スポンサーサイト



プロフィール

魚里

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる