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ちょうふく山の錬金術師
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 ある日、平和なアメストリス国に暗雲が立ち込めたかと思えば、

「錬金術師が子を造った。迷惑かけられたくなければ明日の夜までに、ちょうふく山にケーキ持って来い」

と、拡声器もかくやの大声がとどろいたのでした。

 驚いたのは国民です。

 まさか本当に錬金術師がいるなんて、思ってもみなかったのです。

「世界一うまいケーキを作るのじゃ」

 王様が、選りすぐりのパティシエを集めて、命じます。

 錬金術師に迷惑をかけられては困ります。

 一般人とは微妙に思考が違う彼らは、ひとをひととも思っていない場合がたいていなのです。そう、ひとをひととも思っていないというところでは似ているものの、なにをするかわからないという点では、王様よりも遙かに迷惑な存在なのでした。

 たくさんの、パティシエたちが、腕によりをかけて、三段重ねの、ウェディングケーキも真っ青になるような、みごとなケーキが出来上がりました。

 しかし、問題は、これからです。

 いったいだれが、ケーキを錬金術師のところへ持ってゆくのでしょう。

「誰か、おらぬのか。成功した暁には、三階級昇進を約束しよう」

 しかし、だれひとりとして、名乗り出るものはおりません。

 それもそのはず。

 錬金術師のところに行って、錬金術の材料にされたら困ります。

 三階級昇進くらいと、いのちを秤にかけて、命のほうが重いのが普通です。

 王様が唸っていると、

「あのう」

 宰相が声をかけました。

「おお。おまえが行ってくれるのか」

「まさか」

「では、なんじゃ」

「国一番の物知りのところに行けば、なにかいい手段が見つかるかもしれません」

 おまえは宰相だろうが――という突っ込みは、この際王さまは胸に留めて、玉座から立ち上がりました。

「呼び出せば済むことじゃろうに」

「あいにく、国一番の物知りは、国一番の年寄りなものですから」

 来る途中にぽっくりいかれては、大変です。

「そ、それはそうじゃの」

 さっそく、王さまは、仕立てさせた四頭牽きの馬車に飛び乗ったのでした。

 がらがらと、うるさいくらいの音をたてて、馬車が走ります。

 やがて、王宮の門のすぐ裏手に、一軒の古そうな家が見えてきました。

「王さまのおいでだ」

 宰相が呼びますが、誰も出てきません。

「おっちんでおるのではないのか」

「縁起でもないことを言わないでください」

 王様と宰相がこそこそと話していると、脇の繁みがガサガサと音をたてて、金色のひよこのような頭をした、背の高い青年が現れました。

「あんたら、なんだ?」

 不遜です。

「王様だ。そうして、私は、宰相だ」

 胸を張って、宰相が言いますが、

「ふうん」

 タバコを咥えたままで、青年は、ふたりを上から下までじろじろ見ておいるだけです。

「国一番の物知り殿はどちらに?」

 少し態度を改めて、宰相が尋ねます。

「ああ。じいさまなら、三日前にくたばった」

 ぽりぽりと目尻を指先で掻きながら、青年が軽く言ってのけます。

 肩を落としたふたりに、

「で、じいさまに何の用だったんだ?」

 これこれこう――と、宰相が、説明します。

「おまえなんかには無理だろう」

 王様が、ふてくされて言い放ちます。

 それに、ケラケラと笑って、

「じゃあ、それ、オレが持ってってやるよ」

 背伸びをしながら青年が言いました。

 気分転換になりそうだしな。

「気分転換どころか、からだが変換されたらたまらんだろうが」

「変な突っ込みいれるなよ。持ってって欲しいんだろうが」

 そのとおりです。

 王様と宰相は、青年に、ケーキを手渡すと、すっ飛ぶように、馬車を走らせたのでした。

「馬車ぐらい置いていけよな」

 ふーと、煙を吐き出して、青年は、肩をコキコキと鳴らしました。

 錬金術師が住むらしい森に入って、青年は、祖父の残した地図を確かめました。

「ああ。あれか」

 見れば、森の中、唐突に、ベージュの岩を組み上げたみたいな山があります。

「なになに……この山の天辺…………勘弁してくれよ」

 しかし、約束したからには、ゆかなければなりません。

 よっこいしょと、ケーキの入った箱を背負いなおすと、青年は、山をえっちらおっちらと登って行ったのでした。

 三段重ねのケーキは肩に食い込むくらい重く、青年は、途中で顎を出してしまいました。

 手近の石に腰を下ろすと、

「時間もなさそうだしな。先に錬金術師の家に行った方がよさそうだ。ケーキは後で取りに来よう」

 そう独り語ちて、山を登ったのです。

 やがて、あちこちにガーゴイルの貼りついた、ゴシック様式の建造物が見えてきました。

 鉄の重そうな扉まであります。

 紐を引っ張ると、深い鐘の音が鳴り響きました。

「錬金術師さん。アメストリスからケーキを預かったのですが」

 まるで、宅配便のようです。

「おーう」

 太い声が聞こえてきたと思えば、扉が開きました。

「あんたが、錬金術師さんか?」

 イメージの違う大男に、青年が聞きました。

「ちがうよ~。けーきはぁ?」

 間の抜けたような声で聞きかえされて、

「重かったので、途中で置いてきた」

「それは、ご苦労さま。グラトニーとっておいで」

「はいはい~」

と、大男は、間延びした声に似あわない速さで、山を降りてゆきました。

 うわ~美人のおねーさんだ。

 目を丸くした青年に、にっこりと笑うと、美女は、

「中に入りなさい」

と、やや命令口調です。

 でも、美人のことばに、青年は、従います。

「お父さんはもう出かけちゃったし、弟はまだ容器から出たばかりで、ちょっと動けないのでね」

 そういいながら通されたのは、家具調度も黒檀で統一された、広いけど暗い部屋でした。

「祝ったげようと思ったんだけど、わたしたちじゃケーキは作れなかったの。それで、グラトニーにアメストリスに作ってもらっておいでってお使いを頼んだのだけど」

 ははは――それが、騒ぎの元凶すか。

「煙草吸っても?」

「いいわよ」

「じゃ、遠慮なく」

 すぱーっと、美味しそうに、青年が煙を吐き出します。

 やがて、

「ラストー取ってきたよ~」

 先ほどの大男がケーキを抱えて駆け込んできました。

「じゃ、全員そろったところで」

 そう言って、部屋の奥のカーテンを開けたのです。

「わたしたちの弟、エンヴィよ」

 カーテンの向こうには、ひとりの少年が、ぼんやりと椅子に座っていました。

 長い髪、白い肌。

 なかなかの美少年です。

「ハッピーバースディー、エンヴィ」

 大男の音頭で、青年を含めた三人が、歌い始めます。

「誕生おめでとう」

 とりあえず青年も、加わります。

 そうして、ひとしきりケーキを食べて盛り上がったひと時が過ぎて、

「じゃあ、俺帰るわ」

 青年が、言った時です。

「だめだ」

 青年の腕を、誰かが引っ張ります。

 見下ろすと、先ほどの少年が、にんまり笑って、青年の手を握っているではありませんか。

「エンヴィはあなたが気に入ったみたいね。もうしばらく遊んでやって」

「いや、でも………」

「お・ね・が・いっ」

 にっこりとラストに笑って言われると、青年はとろけてしまいそうになります。

「わ、かりました」

 ふらふらと、揺れる青年の手を引っ張りながら、

「これ、オレんだからね。ラストにはあげない」

 そう言って、笑ったのでした。





「あの青年は無事にケーキを届けたのだろうかの」

「さぁ……待つしかありませんな」

 王様と宰相とが、顔を見合わせて、溜め息をつきます。



 金髪の青年は、一月経っても二月が過ぎても、帰ってきません。

 かといって、迷惑をかけられるような事態も起きなかったのです。

 青年がどうなったのか、知っているのは、ラストとグラトニーそれに、エンヴィという三人だけでした。





 お、落ちませんでした。
 ごめん。
 元話は、「ちょうふく山の山姥」なのですが。
 金髪の青年は、ハボさんのイメージで。
 ハボさんがどうなったのかは、お好きにご想像くださいませ///
 それでは、書き逃げ!
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