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更新♪
 いつもご来訪&拍手ありがとうございます♪


 今日のお昼〜祖母がうどん! って言うので、まはろまで。
 山掛けのぶっかけ冷やが、美味しかった!
 夏はあっさりとだね〜。
 でもとろろって、あっさりかな?
 テンプラ盛り合わせも食べちゃいましたがvv
 おごちそうさまでした。
 合掌。

 んでもって、最近海からの風が結構ひんやりで涼しめかな〜と昨夜思い切って扇風機も止めて寝ちゃいましたが、あれ? 眠れました。しかも、ダイゴまで引っ付いてきた。
 やっぱ涼しかったのかな?

 ええと、昨日今日とひたすら思いついた話に取り組んでおりました。
 内容は〜いつもの昇×浅とは微妙に違う。別に男女でもオッケ? みたいな。いつも以上にHシーンはないですvv
 そうですね〜このごろお気に入りの歌「魔女」に触発されちゃいました。
 少しでも楽しんで頂けると嬉しいんですが〜。ぬるいですか? やっぱり。
 原稿用紙換算で大体37枚程度ですかね。

 執筆のお供は、DVD4本。『魔公子 炎魔』『100年後』『アナスタシア』『美女と野獣』です。なんつうか、妙なラインナップですけどね〜。音が欲しかったの。
 で、『美女と野獣』なんですけど〜なんかベルが鼻持ちならないと思った魚里は〜変なんかな? なんかね。見てると、ガストンが可哀想になってきて困ったvv いや、あの性格はしかたないけど、我侭なんだけど〜あそこまでベルに追いつめられたんだよね、とか。殺さんでもxx いや、あの深い谷に堕ちて、でも、助かってたりしそうな気もしますが。で、ローレライとかに助けられたらいいのにね。って、ローレライだったらとって喰われるか。しかも、ドイツだしな。フランスの水の妖精って、ナンだったっけかな〜。ウンディーネもドイツだっけか。まぁ、フランスというよりアメリカ開拓民のバックグラウンドが根底に流れてる気がするんだけどね。逞しさ=男らしさ=甲斐性の時代だからなぁ。ベルが変と言えば変わってるんだよね。うん。おそらく。だんだん魚里が斜めって来てる気がする。
 でもって、王子様は野獣のままが可愛いのにね〜。元に戻らんでもいいのにと思ってしまう魚里はもう、末期だろうなぁ。溜め息。 

 『アナスタシア』は最初のあたりが一番好きさvv ドミトリーも、可愛いので良いの。これ好きだからね〜。

 『100年後』は、こどもゾンビの復讐もの。炭坑で働かされて事故の時見捨てられるかどうかして全滅させられたこどもたちが大人かなにかに復讐してて、最後炭坑の持ち主を殺してハッピーエンドらしい。持ち主は、100年後だから子孫ですけど〜鼻持ちならないイヤなヤツなので、カタルシスあり。ゾンビものにしてはらすとがすっきりしてるので好き。

*** 以下 本編です。

 「最後のひとり」






 昏い。

 とっても、暗いんだ。

 視界が利かない。

 少年は這いつくばり、躄(いざ)るように進んだ。

 手を伸ばして周囲を探るが,触れてくるものは,なにもない。

 ただ、足下、地面の感触だけが、総てだった。

 わかっている。

 周囲の状況など。

 けど、確かめずにいられない。

 くり返さずにいられない。

 なぜ。

 どうして。

 いつもいつも、少年が求めるのはいつか見た,青い空。

 いつも当然のようにあった、頭上の青。

 青い空を見た最後の記憶。

 あれは、夏だったろうか。

 暑い夏。

 寄せては返す万の波が、本来の海の姿を取り戻してゆく。

 浜辺で,少年は,血にまみれていた。

 血塗れた記憶だった。

 苦しくて,辛くて,哀しくて。

 気が狂ってしまいそうなほどの苦痛。

 それは、彼を抱きしめる、母の腕。

 母親の、慈愛に満ちた、まなざし。

 遠く近く、たくさんの人々の骸が散らばる、血なまぐさい夏の記憶。

 黒い髪、黒い瞳、象牙色の滑らかな肌を持った、彼の一族。

 ほんの少しだけ他と違う力を持っていたために、祈る神を違えたために、かつて住んでいた土地を追われ、かろうじて逃げ延びた生き残りは、しかし、探し出され、再び虐殺された。

 少年の命も、もう、長くはないだろう。幼い彼のどこか不思議なまでの諦観が、母親を刺激したのだろうか。

『助けてあげる。あなただけでも生き延びて』

 母親のことばに、うなづいたのだろうか。

 それとも、拒絶したのか。

『なんとしても、あなたを助けてあげる』

 ぜいぜいと、息が弱くなる母親の、哀しいほどの妄執が、少年の耳を貫いた。

 生き延びて幸せになってと言いたかったのか。

 生き延びて、一族の敵を討ってと言いたかったのか。

 うるさいまでの波の音も、強烈なほどの太陽の熱も、母親のことばに凍りついたかのようだった。

 こもった音とともに、母親のくちびるから大量の血があふれだす。

 細い指先が、まだらに血を吸った褐色の砂に朱の図形を描いてゆく。

 母親が、最後の力を振り絞り、両手を空に掲げ、なにかを詠唱した。

 力尽きて砂に倒れ伏す。

 縋りついた少年の手を握り締め、

『愛しているわ。わたしの郁也』

 ささやいた。

 独りにしないでと、既に痛みも麻痺した少年は、母親に抱きついた。

 母親の命は長くない。

 彼女が息絶えた後は、少年はこの砂浜に死ぬまで独りでいなければならない。

 それほど長くは残されないだろうその時間を、それでも恐れた。

 寂しい、と。

 怖い、と。

 よりいっそう、きつく。

『大丈夫よ』

 やさしい言葉とは裏腹に、彼女の瞳は邪悪なまでの赤を宿して彼を見上げてきた。

 青。

 空はどこまでも青いのに。

 どうして、自分のまわりはこんなにも。

 そう少年が思ったときだった。

 いつの間に。

 目の隅に、母親のくちびるが引き攣れるように笑んだのを見たと、そう思った。

 音もなく佇むその人影に、彼女は手を差し伸べた。

『我らが主よ』

と—————

 冷たいまなざしが、下される。

 一族と同じ黒い瞳と黒い髪の男が、これだけは違う白い肌の腕を伸ばした。

 母親の顎を持ち上げて、訊ねる。

『なにを望む』

 その声の冷ややかさに、少年の全身を死に瀕するものとは別の寒気が駆け抜けた。

『この子の生をっ』

 覗き込む彼女の両眼の奥になにを見たのか、口角を歪めて、男は笑った。

『それだけか。なにを我によこす』

『わたしの総てを』

『いいだろう、ならばこれも、我がものだ』

 男の手が、言いのけざま少年を抱き上げた。

 母親の瞳が、それを見届けて、閉ざされてゆく。



 それが、彼が正気の母を見た最後の時だった。



 あの時、彼女の黒い瞳に、どんな感情が込められていたのか、彼は思い出すことができずにいる。



 あれからの十年を、少年は“主”と呼ばれた男に育てられた。

 冷たい声とまなざしが、いつも向けられていた。無関心では決してないその冷ややかさは、常に彼を怯えさせた。それでも、それだけが、当時の彼に与えられるなにものからの感情で、彼はそれを求めずにはいられなかったのだ。

 それが変わったのは、彼が十七になったあの時だった。

 冷ややかなまなざしが、ぎらりとした熱を宿し、彼を凝視した。

 いつかのように伸ばされた手は、彼を抱きしめてくる。

 落とされたくちづけは、しかし、彼を戸惑わせるばかりだった。

 本能的な拒絶は、“主”の機嫌を損じたのだろう。

 くちづけ以上の無理強いはされなかったものの、あれ以来、闇の中だ。

 彼は、ただ、生かされている。

 これを“生”と呼べるのならば。

 食べることも、飲むことも、排泄することさえ、必要なかった。

 ただ、からくり仕掛けの人形のように、闇の中に打ち捨てられている。

 “主”が、たまさかに訪れるときだけ、生きているのだと実感することができる。

 その時にだけ、自分が生きているのだと思い知る。

 あの男の気まぐれな声によって、思い知らされるのだ。



 白い手が、闇のなかに翻る。

 男の全身が現れ、

「郁也」

と、低い声で彼を呼ぶ。

 凝視してくる黒い瞳に、好悪よりも先に、畏怖が立つ。

 これは神なのだと。

 母が最期まで信じていた神なのだと。

 だから、彼には逆らうことはできない。

 神の求めに従うしかない。

 全身が震えても、冷たい汗が流れても。

 理性ではそうわかっていても、今もまだ、生理的な嫌悪が、こみあげてくる。

 伸びてくる手を、はねのける。

「ご、ごめんなさい」

 我に返った彼の頬に、冷たい掌が触れてくる。

「お前は我がものだ」

 わかっている。

 そう。

 母の総てと引き換えに彼は生き延びた。

 “母の総て”

 その中に彼も含まれていたのだと、母は理解していたのだろうか。

 母の望みは、彼の“生”。

 だからこそ、彼は、殺されることはない。

 しかし、彼の総ては、“主”のものなのだ。

 黒いまなざしが、彼を見下ろす。

 その奥に、彼の未だ知らない欲の滾りを潜めたままで。

 ゆるやかにくちづけが落とされ、はなれてゆく。

「お前が望まなければ意味がない」

 そう耳元でささやかれて、彼は止めていた息を吐く。

「お前がわたしを望んだ時、お前の生は真実のものとなるだろう」

 今はまだかりそめの生にすぎないが。

「どうすれば、お前の心は我を求めるのだ」

 瞳を望み込まれて、彼は、戸惑う。

 わからない。

 “主”の白い顔を見上げながら、彼は、途方に暮れるのだ。

「お前の望みはなんだ」

 長い……と感じた沈黙のまなざしの後に、“主”が口を開いた。

 溜め息混じりのような、戸惑っているかのような、不思議な声音に、“主”の見知らぬ顔を見出したような気がした。

「青」

と。

 そうして、彼は、

「青空。青空の下で暮らしたい」

と、つぶやいていた。







 叶えられた願い。

 それは期限のあるものだったが。

 彼は再び見ることができた青空に、目を細めた。

 まばゆい。

 どこまでも青い空は、まるであの悪夢などなかったことのように澄んでいた。

 それもそのはず。

 あの悪夢の日から、三十年近くの歳月が流れていたのだ。

 だから、あえて少年の生まれた国に彼は出してくれたのだろう。

 この国で、少年は唯一の異端なのだから。

 もっとも、今の少年を見て、そうと見破るものはいないだろう。

 黒かった少年の髪は白く、同じく黒かった少年の目は赤くなっていたからだ。






 
 彼は市場で野菜の品定めをしていた。

 買って帰らないと夕飯が作れない。

 午後も早い時間だが、市場はにぎわっている。

 野菜でスープでも作るかと、幾種類かの香草を矯めつ眇めつしていた彼は、呼びかけてくる声があることに気づいていなかった。

 それに、相手が焦れたのだろう。

 肩にかけられた手を振り払うようにして振り返った彼は、相手を睨みつけ、そうして、その場に強張りついた。

 青い。

 男の目が、とてもきれいな青だったからだ。

 彼が長く憧れつづけた、青い色。

 今まごうことない青空の下にいるのだとしても、青は、やはり彼が永い間憧憬しつづけた色にちがいない。

「これを落とされましたよ」

 二十代だろう金髪に碧眼の身なりの良い青年が、なにかを差し出してきた。

 見れば、それは彼の財布だった。

 茶の革に、銀細工の縁取がある透明な青い石がひとつだけ落ち着いた装飾となっているそれを見て、

「ありがとう」

と、受け取った。

 買い物に出て財布をなくしたでは洒落にならないからだ。

「よければ、お茶などご一緒して頂けませんか」

「はい?」

 間抜けな顔をしていただろう。

「ナンパなら女の子をどうぞ」

 石のつぶてをいきなり喰らったような顔をして、男は彼をまじまじと見る。

 その視線のぶしつけさに、彼の眉間に皺が寄る。

「じゃ、そういうことで」

 少年は、自分自身の姿があまり好きではない。

 本来の色彩を無くしてしまった外見を、自分のものだと認められないからだ。

 あの日の出来事が少年から色を奪ったのか。

 それとも、その後の永い歳月か。

 かつては黒かったはずの少年の髪は、白になった。

 瞳は、血の色をそのまま宿している。

 肌の色さえも、生成りの色をなくした。

 これは、自分じゃない。

 この“生”が真実のものじゃないのと同じく。

 ひとの多い王都で、この男にはもう会うこともないだろう。

 野菜を諦め踵を返した彼の手を、

「待ってください」

 しかし、男は掴んだ。



 アリストーは、彼を好きだと言う。

 その後にきまって、

「君は? 郁也」

 そうやわらかく微笑むのだ。

 それが彼をどれほど苦しめるのか、アリストーは知らない。

 少年を縛るものがなになのかを、アリストーに知られるわけにはゆかない。

 彼をしばるその鎖が、冷たく、同時にあたたかい闇だということを、知られてしまえば最後なのだ。

 なぜならば、アリストーの神とは相容れない異端の存在が彼の唯一の“主”だからだ。

 ばれれば、彼は殺される。

 未だ治りきらない古傷が、その恐怖を思い出させる。

 その悲しみもまた。

 青い瞳は彼を惹きつけてやまないが、彼自身を今縛るものと過去の記憶が、彼を怯えさせるのだ。

 これは、“主”に対する裏切りだと。







 かつて、国は赤褐色に染まった。

 朱の奇禍を起こしたのはひとりの魔女だった。

 狂乱の魔女と恐れられた黒髪黒瞳の女は、捕らえられ火刑に処されるまで、実に百人になんなんとする兵士を殺したと伝えられる。

 炎に炙られ死に絶えるその瞬間まで、魔女は、国を神を呪った。

 その骸は砕かれ、海に撒かれたのだと言う。

 二度とよみがえることのないように———と。







「これがその魔女の似せ絵だと?」

「仰せのままに」

 華美な衣装の男がアレストーに礼をとる。

 対するアレストーは一見簡素な装いだが、上質な生地と仕立ての良さを見てとることができた。

「陛下は誑かされていらっしゃられるのです」

「馬鹿な」

「黒い髪を白に、黒い瞳を赤にしてごらんください」

 男のたるんだ頬が揺れる。

 細い瞳が嶮を孕んで吊り上がる。

「そっくりではありませんか」

 言われて似姿を検分する。

「似てはいる。似てはいるが、それだけだ」

 秀麗な眉間に刻まれた縦じわに、男の薄い口角が邪悪な笑みを刻んだ。

『陛下はわたくしなど見向きもされません』

 愛しい娘の嘆きに、侯爵はしのびの国王が恋をしたと言う相手を確かめた。

『少年ではないか』

 子を生せぬものなど、王家に用はない。

 王妃であれ寵姫であれ、望まれるのは、第一に王の血を引く子を産むことだ。

『お前が負けるはずがない』

 豊かな国の王妃となるのは、我が子だと。

 侯爵は一計を案じた。

 幼い頃に見た魔女の火刑、その魔女の面影を少年に感じたのは、偶然だった。

 他人のそら似だと思いこそすれ、主張をつづければ、現実になる。

 侯爵はそれをよく知っていた。

 賢王と呼ばれ、どれほど市井に立ち混じろうとも、所詮は箱入りにすぎない。

 ほんのひとたらし、ふたたらし、ささやくだけでいい。

 毒は、最初はかすかな疑惑に過ぎないだろうが、芽吹くのだ。

 小さな芽が。

 そうなれば、自分の思い通りだ。

 少年には悪いが、王を誑かしたのが悪いのだ。

 これは、罰だ。

 どこの馬の骨とも知れないものが王を誑かした罰。

 我が娘の邪魔をした罰。

 それは、死をもって償ってもらおう。

 三十年前の魔女と同じ火刑が相応にちがいない。

 侯爵は、こぼれ出しそうになる笑いをごまかすため、杯を取り上げ、一息に飲み干した。







 郁也の心に芽生えたほんのささやかな感情は、“彼”を満足させた。

 怯え縮こまりきっていた少年の、わずかな変化。

 それをもたらしたのが自分ではないことが忌々しかったものの、ひとの心がままならないものだということを、“彼”は知っていた。

 本人にすらままならないものを。

 ともあれ、郁也の望んだ青い空のもとに彼を出したのは、正解だったのだ。

 “彼”の最後の信徒の心が癒えることが、“彼”の望みだった。

 信じられるからこそ、“彼”は存在することができる。

 郁也の死は、“彼”の消滅の時でもあるのだ。

 もっとも—————と、“彼”はひとりごちる。

 郁也が存在するならば、それだけでいいのだ。

 彼にとって、郁也は特別な存在だった。

 どう接すればいいのかなど、“彼”にわかるはずもなかったが、最後のこどもとなった郁也を、愛さずにはいられなかった。

 ともかく、深く傷ついた郁也を生かしつづけた。

 怯え泣きじゃくる郁也が育ってゆくさまを見守り、それがかりそめでしかないことを悔やみながら。

 証拠に、彼の傷口は“彼”の力をもってすら、癒えることはなかったのだ。

 力が衰えて、久しい。

 郁也の母親が処刑され、遂に郁也のみとなってしまったのだ。

 “彼”を信じるものも、“彼”が守るべきものも、互いに唯一の存在となった。

 “彼”の力はささやかなものとなり、育つに従い郁也の傷口は大きく開いた。

 闇に閉ざすことで、郁也の成長をとどめ、これ以上傷口が広がらないように処置をくり返す。

 郁也に与えた外での期限は、傷口が今以上に広がることのないぎりぎりの限界だった。

 彼の総てを手に入れたかったが、それが叶わないならば、共に消滅することもまた“彼”にとっては至福に他ならない。

 最後のひとりは、“彼”の宿命であるのだから。

 静かに、闇の中で、“彼”は、瞳を閉じた。

 その時がくることを待ちながら。







 そうして、その時はやってきた。

「どうしてっ」

 郁也はアリストーを見た。

 黒い鎧の兵士に囲まれて、アリストーは強い目をして彼を見ていた。

 なにひとつ望まなかった。

 なにひとつ許さなかった。

 くちづけひとつ。

 郁也は自分の立場を、彼なりに理解していた。

 自分は、“主”に生かされている存在なのだと。

 期限付きでここにいるだけの人間なのだと。

 だから、アリストーとはただ街中で待ち合わせ、喋るだけだった。

 気をもたせるようなことは一切しなかった。

 郁也はアリストーの目を見るだけで幸せだった。

 喋るだけで充分だったのだ。

 アリストーの身分が何であろうと、些細なことでしかなかったというのに。

 突然兵がやってきて、罪人のように引き立てられた。

 そうして、でっぷりとした男が、郁也を王を誑かした魔女だと告発した。

 わけがわからなかった。

 アリストーは何も言わない。

 それが、郁也を不安に落とし込む。

 あたたかい空の青を映していた瞳が、氷のように冷ややかだった。

『狂乱の魔女の血筋だろう』

と、詰め寄られて、

 『違う』と、『信じて』と、口にすることもできなかった。

 事実、郁也は魔女と呼ばれた女の息子だった。

 狂乱の魔女の息子だったからだ。

 異端の魔女と烙印を押すために服をはぎ取られ、包帯までも奪われた郁也の肌を見て、アリストーたちが息を呑む。

 郁也はただうつむきくちびるを噛み締めた。

 彼らの目にさらされたのは、治りきらない、生々しい傷口が開いたままのからだだった。

 今にも傷口から血が流れ出しそうな生々しさで、口を開いている。

 死んでいて当然の傷の深さに、男たちは後退さる。

 なぜ、普通に話すことはおろか、動くことまでもできるのだ。

「魔女がっ」

 動いたのは、アリストーだった。

 灼熱に熱せられた焼きごてを抜き取るや、郁也の肌に押し当てた。

 苦痛の叫びと肉の焼けこげる音が、その場に響いた。

「お前の処刑は、明日の正午だ」

 吐き捨てるアリストーの声は、気を失った郁也の耳には届かなかった。







「毒だけでは足りなかったか」

と、侯爵が企てたのは、偽の郁也の逢瀬だった。

 王に見せれば完璧だ。

 事実、王は、それを見て、裏切りを信じた。

「所詮は箱入り。簡単だったな」

 侯爵が誰もいない部屋で杯をもたげた。

「それにしても。本物の魔女だったとはな。噓から出た真実とは、このことか」

 半死人の分際で王を誑かすとは、不届きな。

 しかし、これで、娘の邪魔になるものは消える。

 侯爵は、ひとり笑いつづけた。







 愛しているのに、裏切った。

 郁也がなにかに悩んでいることは、知っていた。知っていて、待っていたのだ。

 自分を選んでくれると、悩みを打ち明けてくれると。

 その時こそ、郁也の総てを自分のものにすることができると。

 それなのに。

 ひとりの男として、王として、こんなことが許されるはずがない。

 郁也。

 信じてと、違うと、ひとことでよかった。

 口にしてくれさえすれば、信じた。

 なのに、口をつぐんだ郁也に、目の前が眩んだ。

 そうして剥き出しにされた、郁也の秘密。

 あの深い傷で、何故生きている。

 何故。

 侯爵の戯言通り、郁也は魔女だというのか。

 惑乱の末に、アリストーは、焼きごてを引き抜いていた。

 いずれ堪能するはずだった、できるはずだった、郁也の肌に、押し付けた。

 そうして、明日。

「誰にも殺させはしない。郁也を殺すのは、私だ」

 郁也が憧れた澄んだ青いひとみを暗く澱ませて、アリストーは吐き捨てた。







 風が吹く。

 重い雲が、空を覆い隠す。

 火刑の杭に縛り付けられ、郁也は、ただ、空を見上げた。

 憧れつづけた青い空は、ない。

 きれいだと思った青いまなざしは、暗く澱んで郁也を見ている。

 所詮自分には、闇がふさわしいのか。

 分不相応なものに憧れて、あげく、このざまなのか。

 “主”よ。

 黒いまなざしが、脳裏をよぎった。

 オレの唯一にして絶対の、“主”よ。

 アリストーが、たいまつに火を移す。

 そうか。

 彼が、オレを殺すのか。

 愛しているとオレの手を握り締めたあの手が、足下の薪に火を放つのか。

 母と同じく、自分は炎に炙られて死ぬのだ。

 オレは、あなたを求めることが許されるのだろうか。

 アリストーに揺らいだ心で、今更、あなたを求めてもかまわないのだろうか。

 どっち付かずの心が、死の恐怖を前に、ただあなたに救いを求めているだけだとしても。

 醜いオレを、許してくれるのだろうか。

 アリストーが薪に火をつけた刹那、

「×××」

 教えられた“主”の御名を、郁也は小さくささやいた。







 その時は唐突に訪れた。

 ささやかな声だった。

 しかし、聞き間違えるはずのない、郁也の声。

 郁也が、自分の名を呼ぶ声だった。

 後悔であろうと、醜悪であろうと、かまわない。

 “彼”は、ゆっくりと瞼を開いた。

 黒曜石のような双眼が、闇の中に鋭い光りを宿した。

 郁也が呼ぶのだ。

 他ならぬ自分の名を。

 なれば、応えよう。

 郁也こそが、唯一なのだから。

 “彼”は立ち上がる。

 次の瞬間には、“彼”の姿は掻き消えていた。







 わざとに湿らされた薪がじりじりと小さな炎を宿して郁也の足の裏を炙る。

 足裏の焦げる臭いに、吐き気がこみ上げる。

 立ちこめる煙に、涙があふれる。

 “主”を求める声は炙られる痛みにただ悲鳴へと変わる。

 痛い。

 苦しい。

 助けてと、ただそれだけのことばすら、紡ぐことはできなかった。

 風にあおられ大きくなる炎が、郁也の苦痛を嘲笑うかのように、着衣の裾にその赤い舌を伸ばす。

 あらかじめ油をしみ込ませられている布は、容易く、己を蹂躙する舌を受け入れる。

 郁也のくちびるから、絶叫が、ほとばしった。







 アリストーはただそうしなければならないからと、松明の炎を薪へと押し当てた。

 心は麻痺したように、愛した少年を見てもなにも感じない。

 怒りも、歓びも、なにもなかった。

 溜飲が下がることもない。

 ひとではない魔女が泣き叫んでいると、そうとしか思わなかった。

 魔女ならば、罰せられなければならない。

 ひとを欺くからだ。

 ひとを傷つけ、裏切るからだ。

 だから、相応の罰として、殺すのだ。

 見せしめとして。

「死んでしまえ」

 つぶやきながら、泣き叫びもがく少年を見つづけた。

 炎が少年の着衣に移り、瞬く間に全身を包み込んだ。



 まさにその刹那だった。



 少年を包み込んだはずの炎が、消えた。



 そうして、少年のすぐ傍らに端然と立ち尽くす丈高い姿を、アリストーをはじめとするその場に居合わせたものたちは見出すこととなる。

 低い声が、遠くまでよく響いた。

 声はただ、

「郁也」

と、少年の名を呼んだ。

 それだけで、少年の炎に縮れた白髪が、元の姿を取り戻す。

 炎に煽られ火傷の初期の症状を見せていた全身が、青白い肌を取り戻す。

 そうして。

 魔女の証と思われた、深い傷跡が癒えてゆく。

 それを、誰ひとりとして、その場から動くことができないままで見ているよりなかったのだ。



「王よ」

 ひとり素早く我を取り戻したアレストーが剣の柄に手を当てた。

 まるでそれを制するかのように、長いローブに身を包んだ男がアリストーを呼んだ。

「真偽を見抜くことのできぬ愚かな王よ。郁也は返してもらう」

 真に罰するべきは、その男。

 いつの間にか郁也を抱いた男は、開いた片手で侯爵を指し示す。

 青ざめた侯爵がなにかを口にするいとますらなく、男が郁也後と掻き消えた瞬間、消えたはずの炎が命を吹き返した。

 と、絶叫が、一同の耳を聾した。

 いつの間にか杭には侯爵が縛められていたのだ。

 炎は近づこうとするものを誰ひとりとして許さず、その日一日燃えつづけた。

 そうして、侯爵は不思議にも、炎が消えるまで、死ぬことさえも許されなかったのである。







 闇の中、郁也は“彼”を見上げた。

「お前は我のものだ」

 “彼”は、郁也を見下ろし、くちづけを落とす。

「オレは………いいのですか」

 こんなに醜いオレでも、許してくださるのですか。

 闇の中、不思議に明瞭に見ることのできる“主”の表情は、見たことがないほどに穏やかだった。

「オレは、あなたのものです」

 満足げに笑む“主”の首に両腕を回し、郁也は目を閉じた。








18:14 06/08/2012

08:29 06/08/2012

19:18 05/08/2012

09:53 05/08/2012



***
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やっと更新
 いつもご来訪&拍手ありがとうございます♪

 「ダブルトリップ」やっと完結しました~。
 な、長かった。
 割には、52枚か~。やっぱりあらすじチックですかね。
 魚里的には、いつもと変わらない気がするのですが、寝室場面が多いので、一応十八禁かな~と。ま、内容的にはほんっとうにいつも通りなんですけどね。ご容赦ください。
 エロは、ぬるいですよ~。ただそう言う状況って描写のみです。色っぽいはなしを書きたいと燃えてた魚里はどこ?
 今時の低年齢層の方がもっとハードかもしれんな。

 昇×浅ではほぼ初挑戦の、浅野くんからの告白を入れてみました。
 めずらしく自覚あり。
 なんですけどね~おじさんツンデレですね。

 これ、後半以降、神官長との最後の濡れ場シーンを夢で見たっていうのがネタ。
 浅野くんの立場が魚里だったというvv で、神官長が、なんと、某K大佐。実在の人物だ。人質とられて愛人にされてると言うのに、彼の最後の愛人として最中に背後から襲われて殺されるというなんとも不条理な魚里でした。
 最後はなんか浅野くんっぽくないような気がしないでもないですけどね。
 まぁ、それで行くなら、彼は絶対自覚しないし告白しないというのが魚里のスタンスだったので、全体的に彼らしくはないです。

 少しでも楽しんでくださいますように。


20051025201523_20120305192925.jpg
 ずいぶん前にアップしてる写真ですが、魚里の溺愛ニャンコのロイくんですvv
 アルビノニャンコらしく、人間に慣れるまでに時間のかかった子です。やっぱ、黒が一番なつっこいよね♪
いや、もう、なんかね。
 いつもご来訪&拍手ありがとうございます♪

 いや、もう、この間沸いたと言っていた異世界トリップもの。
 冒頭、どこがや~って感じですね。
 まぁ、だんだん、いつものパターンに陥っちゃいますけどvv 所詮魚里が書く話だし。

 『ルパンの告白』を引っ張り出し、jetさんバージョンの『八点鐘』を引っ張り出し、ぼへーと読みながら、思いついた話をテキストに書き書き。PCの片方では、青列車の秘密と物言えぬ証人を流してるし~なにやってるんでしょうね、魚里。
 で、だ。
 『アバンチュリエ』の2巻で途中までになってる『ハートの7』だったかを読もうと思ったら、『ルパンの告白』じゃないんだね。収録。あれ? 魚里一連の作品を『ルパンの告白』に収録されているとばかり思ってました。
 ら、『強盗紳士』だったんだ~vv ちなみに、『棺桶島』もルブラン作のよう。好きなんですよね、これ。
 『ルパンの告白』は、なぜか旺文社文庫もあったので、そっちが読みやすいかと、そっちの方を引っ張り出す。うん。一人称『儂』じゃないんだもんvv が、『強盗紳士』は、新潮版vv 一人称やっぱり『儂』だな~。どこのじーちゃんじゃという突っ込みは忘れようvv ルパンだもん。
 で、もひとつなんか混乱してたんだけど、『八点鐘』に収録とか『バーネット探偵社』収録とか思ってたら、『告白』だったのね~って話が多い。あれ? 魚里、はじめて買ったルパン新潮バージョン、『告白』だったのかなぁ? もはや覚えてないんですけどね。『麦わらのストロー』やら、なんか屋根裏かどこかの窓から見える絵画がトリックに一役買ってる話とか、好きだったりするんですがvv こりが、『告白』の方に収録されてたんですね~。
 それにしても、タイトル、『強盗紳士』ですからねvv せめて、『怪盗紳士』にしてほしいvv

 そんなこんなで、以下異世界トリップ妄想の冒頭部分。
 タイトルは~とりあえず、『異邦にて』。実も蓋もありゃせんなxx


*****







 さて。

 何をどう語るべきか。

 私の書く残虐描写がどうしようもなくリアルに過ぎて怖気が走る。もしやして、すべて実体験に基づくものではないか?

 愚かなほどにも使い古された理屈だ。

 が、あながち外れてもいない。

 意外かね?

 五十絡みの男がにやりと口角を持ち上げてみせた。





 仮に、君がなにひとつ事前の知識を持つことのない異世界に迷い込んだとしよう。

 ことばは愚か、なにひとつとして知ることのない世界だ。

 雨風をしのぐ屋根もない。

 頼れる知り合いもいない。

 仕事をするにも、言葉がわからないのだから、文字も読めはしない。そんな得体の知れないものを雇うなぞ、脳みそが一年中春のおめでたい人間だけだ。

 奇特な人間が見つからなければ、喋れるように、読めるように努力しなければならないだろう。しかし、なる頃には、飢え死にだ。

 自然の恵?

 野草?

 毒かもしれない。

 虫や爬虫類?

 同じく。

 野生の獣?

 ナイフ一本身につけていない。

 持ち物と言えば財布、ハンカチくらいだ。もちろん、財布の中味に意味はない。わかるだろう?

 身につけているものを売る?

 そうしてワラシベ長者か?

 夢物語だな。

 男が、鼻で笑った。

 だいたい、いきなり見知らぬ土地に迷い込んでスムースに生きてゆけると思うこと自体、馬鹿げている。

 違うか?

 辛酸を舐め尽くして、それで尚もとの世界にいた頃のように罪を犯すことなく暮らしてゆくことなど、不可能に近い。

 だろう?

 そう言って相手の目を覗き込んだ男の双眸は、少しも笑ってはいなかった。

 ―――まるで、経験したことがあるように仰られる。

 聞いていなかったのか。最初に、私はあながち外れてもいないと、そう言ったと覚えているが?

 ではっ?!

 驚愕に目を見開いた中年のくたびれた男に、対する男が面白そうに笑ってみせた。

 招かれざる客は、辛酸を舐めるのだよ。

 鋭く着れる黒い眼を空に遊ばせ、男はつぶやいた。


2011/12/04 11:24
どうにかこうにか
 いつもご来訪&拍手ありがとうございます♪ レスはメールで♪

 どうにかこうにか昨日から取りかかっていた短編が短編として仕上がりました♪
 内容はスカスカかもしれないですが~。しかし、テーマというか、萌えたもとが「ユディト」だというのに、なんでああなるんかなぁ。あれは、復讐か反撃を成功させた女傑(?)のエピソードのはずだが。魚里が書くと、ああなる。不思議なもんです。最後に親バカちゃんりんのダイゴんの写真をアップしておきますね~。それでは。楽しんでもらえると嬉しいです。

「ユディト」*****






 振りかぶった手が撓る。

 しかし、郁也は重みを感じはしなかった。

 堅い物に石が当たる感触に、彼の心の中で何かが砕け散る。

 喉よ裂けろとばかりに、魂切る叫びをあげていた。

 叫び声は、心の底から愛しい少女、半身の名だった。



 風が、やまる。

 無数の目が、石舞台の上に現れた郁也を見上げていた。

 細い糸のような月が、石舞台を心細く照らし出す。

 黒いシルエットの両手から音をたてて転がり落ちた石が、他愛無く割れた。

 赤い液体が、糸を引くように石の表面を濡らす。

 黒い大理石の表面に、液体が粘性の高い模様を描いた。



「賓客(まれびと)よ」

 草深い大地に、その場に居合わせた人々が額付く。



 見知らぬ大地は血にまみれ、黒い戦煙が立ちのぼる。

 血塗れた手を濯がれて、供された茶は熱も香も散じはてる。

 天幕の中には、薄汚れたものの高貴な装いをまとった男がひとり、背後にふたたりの護衛を従えて敷物に腰を下ろす。

 白く長い髭と髪を持ち額に金の輪を嵌めた老人が、郁也に頭を下げた。

「賓客よ。その血塗れた手を我らに与え、我らを滅ぼさんとするツェルスタスの王を殺してくだされ」

 血の気の感じられない郁也の頬から、なお一層のこと血の色が失せた。

 血に濡れた手。

 言われて、思い出す。

 そう。

 この手は、血に濡れた。

 石を振り下ろした。

 石の下には、脱色した枯れ草色の髪の毛があった。

 そうして、彼が心から愛した最愛の妹が、涙を流していた。

 それは、決して歓喜の涙などではなく、己が身に降り掛かった暴虐に苦悶する涙だった。

 タスケテ。

 我に返った時、郁也は、既に殺意に囚われていたのだろうか。

 誰よりも愛した双子の妹が、泣き叫ぶ。

 助けに行きたいのに、妹を押し倒す男の仲間が彼の動きを封じている。

 どうして。

 どうして。

 どうしてだっ。

 もがけばもがくほど、男の力はきつくなる。

 どうしてだ?

 耳元で嗤いを含んだ声が、郁也を地獄へと蹴落とした。

 おまえがオレのものにならないからだろう。

 アレは、おまえの身代わりだ。

 男に目を付けられたのは、ただの偶然だった。

 郁也は、自分のことをあくまでも平凡だと信じている。

 それなのに、なぜ、この町を恐怖で支配している男に目を付けられる羽目になったのか。それが、わからない。

 ただ、アレにオレの興味はないからな。だから、オレの部下に与える。いつでも、な。オレの気が向けば。アレはこれから、そういうものに成り下がるんだ。

 そうされたくなければ、わかっているだろう?

 おまえがオレのものになれば済むことだ。

 そう言って、耳朶を噛むようにしゃぶられた。

 イヤだっ!

 背中を駆け抜けた怖気が、爆発的な力を郁也に与えたのか。

 それとも。

 男が戯れに力を弛めたのか。

 その両方だったのか。

 郁也は男を突き飛ばし、男の拘束から逃れていた。

 しかし、どうして逃げ切ることができるだろう。

 少し離れた場所で、愛する妹が犯されている。

 妹を助けるためには、けれど、自分が同性に抱かれなければならない。

 それも、この町の支配者、恐怖で支配する、支配者にである。

 二十一世紀に、時代錯誤なことである。

 それでも、これは、現実なのだ。

 郁也の父親が勤めている会社はつい先だって男の手に落ちたばかりだ。その原因が、自分にあることは、今更考えるまででもないのだろう。未だに信じることはできないが、それでも、男はそこまでしてなぜなのか自分を手に入れたがっている。それだけは、目を背けることすらできない現実なのだ。

 突きつけられる現実は、ただ、彼を混乱と恐怖とに落し込むばかりで、どうすればいいのか判らなくなる。

 妹の悲鳴が耳に突き刺さる。

 タスケテと。

 どうする?

 嘲るかのような男の声に含まれているイヤなものを感じて、郁也はただ首を振ったのだ。

 ぞろりと男が舌なめずりをする。

 まるで自らその顎(あぎと)へと己が身を捧げようとする獲物を見る古い神の化身とでも言うかのように、情け容赦のない餓えをその目にたたえて男が郁也を見た。

 その暗いまなざしに歪んだ喜悦をたたえて、男が手を差し伸べる。

 手に入れる。

 長い飢渇が癒される。

 その期待に、冷え凍えた胸が高鳴った。

 次こそは逃がさない。

 なにをしても。

 歯向かうことができないように、牙を抜いてやろう。

 逃げることができないように、その翼を引き千切ろう。

 この存在はオレのものだと、あの刹那の邂逅に直感したのだ。

 しかし。

 郁也は、呪縛を打ち破った。

 男の手を取る寸前に、足下の石を持ち上げると、彼の妹を嬲りつづける男のほうへと向かったのだ。

 手に入る寸前の油断が招いた、思わぬ反撃ではあった。

 振りかぶられた石が、男の部下を打ち据える。

 鈍い音がたち、血の花が散った。

 そうして、男の目の前で、郁也は姿を消した。

 まるで空間が裂けたかのように。

 最初からそこにはいなかったかのように。

 騒然となる男たちの目の前で。

 男の喉が震えた。

 圧し殺した笑い声が、しばらくの間、細い月の下に響いた。





 神に仕える古いアルツの民は滅びるだろう。

 侵略の足音はすぐそこまで来ていた。

 平和を享受し、戦の方法など忘れ果てて等しい。

 兵など疾うに、神殿の飾りと成り果てた。

 尊い唯一神に仕える自国の人間を、他国の人間の血で汚したくはなかった。

 望みはもはや異世界からの賓客にしかなかった。

 誰もが本気にすることのなかった、古い伝説である異世界からの賓客は、血に濡れた手をもって尊いアルツの民を救うのだ。

 細い月の夜、老王は決意した。



 せぬよりましであろ。



 そうして現れたのは、生気にとぼしい若者だった。

 伝説通りその両手を血で濡らして、儀式の行われた石舞台の上に現れた。







 あの男は、死んだのだろうか。

 郁也は震えた。

 それは、興奮の名残か、罪悪感からか。

 死んで当然だ。

 口角が持ち上がってゆく。
 
 救えなかった妹。

 妹は、枯れ草色の髪をした男の下で、ただ滂沱と涙を流していた。

 色濃い絶望に彩られたその瞳は、なにも見てはいなかった。

 不甲斐ない兄を………。

 許せと言いたいのか、憎めと言いたいのか、判らなかった。

 郁也が、見知らぬ世界に混乱しないはずはない。

 あの修羅場から突然違う世界に引きずり込まれたのだ。

 あの男。

 自分に執着していたあの男が、突然消えた自分に、妹を解放するだろうか。

 解放してくれるだろうか。

 そうであればいい。

 しかし、それは浅はかな願望でしかない。

 あの男は、ただ自分を手に入れるためだけに、妹を貶めさせたのだ。

 あの日、あの男と出会わなければ。

 あんなにも、あの男を拒絶しなければ。

 妹は、あんな目に遭うことはなかっただろう。

 抱いてはならない想いだった。

 妹に対する、まぎれもない肉欲絡みの愛着だった。

 それをどうしてか知られて、意地になった。

 それの何処が悪い。

 妹をただ愛してしまっただけだ。

 他の誰も好きにはならない。

 妹を一生抱くことはないだろうけど。

 それでも、他の誰かを好きになることなどないのだと。

 諦めたと思った。

 頑なまでの自分の想いが、あの男の自分に対する想いよりすら醜いものだと知って。

 なのに。

 待ち伏せされて、連れてゆかれたのは、男の別邸だった。

 その中庭で、先に攫われていた妹が受けていた暴力。

 助けを求める妹の声。

 男の想いは、自分の想像をすら凌駕するものだったのだ。

 だから、多分、妹が解放されることは、ないのだろう。

 自分が、あの男の所に行かない限り。

 なぜ行けないかなど、関係ないのに違いない。

 自分がいなくなったことだけが、あの男にとっては問題なのだろうから。

 郁也の全身がさきほどよりもより大きく震えた。

「帰してくれ。元の世界に」

 鋭い声で、拒絶する。

 この手が他人の血に濡れていても。

 あれは、あくまでも、自分の意志だった。

 自分自身の憎しみだったのだ。

 そこに、他人の憎しみを肩代わりするような余裕などありはしない。

 なのに。

 それなのに。

 老王は言う。

「我らが願いを叶えれば、自ずと道は開けよう」

 殺せと言うのだ。

 自分の手を汚すことなく、他人にその肩代わりをさせようと。

 自分が帰るためにはそれしか方法がないのだと、さも当然のように。

「返事は如何(いかん)?」

 老王の灰色の瞳が、郁也の褐色の瞳を覗き込んだ。







 ツェルスタスの覇王の名を知らないものはいないだろう。

 その姿を知らぬまでも、名を知らぬものはおらぬ。

 ツェルスタス・昇紘。

 それこそが、ツェルスタスの覇王の名である。

「神の愛し子(めぐしご)アルツか」

「そのような国も民もいらぬ」

 このことばが、アルツへの侵攻を決定づけたのだ。



 アルツとツェルスタスの国境線となったその土地にツェルスタスの軍が陣取ったのは、郁也が呼ばれるその二日前のことである。

 軍事力の差は圧倒的だった。

 アルツの兵は、ツェルスタスの半分にも満たない。そのツェルスタスの兵すら、全兵ではないのだ。



「頼るは神の恩寵とか」

 ひときわ巨大な天幕に集ったツェルスタスの将のひとりがつぶやいた。

 小波立つような笑い声が忍びやかに満ちる。

「そのようなものが真実存在すると信じているのか」

 王弟、ツェルスタス・ホルムスワルドを王都に残し、王自らが陣を張った。

「神などおらぬ」

 そうとも。存在するというならば、疾うに罰されているだろう。

 神の雷に討ち滅ぼされているに違いないのだ。

 この手がどれほどの血にまみれているのか、他ならぬ自分が一番よく知っている。

 それでも。

 一度手を染めた覇道を途中で放り出すことなど、できはしない。

 覇王には覇王なりの悩みもあれば、苦しみもある。

 それは、彼もまたひとである証拠であったろう。

「なればこそ」

 すべては我が名の元に。

 地図を広げ、昇紘は兵の最終配備を確認しはじめた。







「こちらで」

 決して安穏とは癒えない雰囲気の戦場の川岸に郁也を導いたのは、アルツ王の側近だった。

 開戦以前から勝敗など決しているというのに、ツェルスタスに容赦と言うことばはないかのようだった。

 少ない兵や民兵の決死の抵抗も虚しく、幾つの町が落ちたのか。

 ようやく現れた賓客が己の立場を理解するまで、側近らは心臓を炙られるかの心地で過ごしていたのだ。

 やさしくすることなどできそうもなかった。

「ここから見えるあの天幕が、ツェルスタス王のものだ」

 篝火に照らし出されている天幕はひときわ巨大で、ちらちらと光を反射するのは、王の紋章をかがる金糸なのだろうか。

 広い川幅を隔てても、相手側のざわめきは充分に聞こえてきた。

「わかっておられような」

 付け髪にしのばせたささやかな短剣だけが、郁也に与えられた武器だった。

「好機を違わず王を殺してくだされ。さもなくば、賓客どのにあられては、元の世界に戻ることあたわずと心得られよ」

 自分の頭の中に流れる血の音が、耳を聾するほどにうるさい。そのため、ともすれば男のことばを聞き逃してしまいそうになる。

「それでは。頼み申します」

 そう言うと、男は、郁也を斬りつけた。

 何が起きたのか。

 理解する間もなく、ただ痛みが全身を駆け抜ける。

 ひらひらとした、まるで古代ローマや古代ギリシャのような薄い一枚布の服が切り裂かれ、血に染まる。

 そうして、郁也は、男に川に突き落とされたのだ。







 溺れる。

 そう思った。

 苦しい。

 息ができない。

 こんな所で死ぬのか。

 死んだりしたら。

 死んでしまったら。

 小夜っ!

 苦悶に歪む妹の顔が、郁也の脳裏をよぎった。







 血が滾る。

 剣や槍、弓、果ては軍馬の蹄に、数多果てたひとの命。

 それが、男の本能を逸らせる。

 夜が来ても、昂りはおさまらない。

 そうでなければならないだろう。

 しかし、何も感じない。

 こころは小波たつこともなかった。

 天幕を出るさい、ついて来ようとする護衛兵を押しとどめ、ひとり陣をそぞろ歩く。

 篝火に照らされて、非番の兵たちが杯を傾け笑いさんざめく。

 男を見て頭を下げるのは、男を直に見知る高位の者たちばかりである。以外は、男の顔を遠目でしか知らない。

 蹂躙される捕虜の悲鳴に、自軍の兵の下卑た笑いが混じって聞こえる。

 地上の酸鼻に比べて、なんと夜空の清浄なことだろう。

 もし仮に神がいるのなら、神は人の世など顧みることはないだろう。

 我は知らぬとばかりに、遥かなる高みから見下ろすか、顔を背けるか。

 ただの傍観者に違いない。

 昇紘は、鼻で笑った。

 自分らしくない。

 大地を踏みしだき、草を踏みにじる。

 そうして川縁にたどり着いた昇紘は水面を見下ろし、おもむろに手を川に入れた。

 彼が元の体勢に戻った時、彼の腕には、気を失った郁也の姿があった。







 血の気のない象牙色の肌は、熱を奪われ、川の水に洗われた傷口からのぞく肉の色が昇紘の劣情を目覚めさせた。







「昇紘」

 男が名乗った時、郁也は飛び起きた。

 なりふり構ってなどいられなかった。

 肩から斜め下に裂かれた上半身の傷口が痛みを訴える。しかし、郁也の頭にあるのは、ただ小夜のこと。そうして帰らなければという、それだけだった。

 帰らなければ。

 そのためには。

 なにをしなければならないのか。

 しなければならないこと。

 やらなければ。

 やらなければ。

 殺らなければならないのだ。

 殺る。

 この手で。

 濡れてきしる付け髪を毟り取る。

 出てきたナイフを振りかぶった。

 それまで、ほんの数瞬だった。

 背中に衝撃が走った。

 視野がぶれる。

 息が詰まった。

「暗殺者か。それとも、復讐か」

 短刀を取り落とした郁也の掌を矯めつ眇めつしながらの、楽しそうな声だった。







 苦しげな声が天幕の中にこもる。

 昇紘の手が、まだ細い郁也の首を絞める。

「言え」

 残酷な声が、あえて問う。

 簡易なものにしては充分贅沢な褥の上で、郁也の手は自身首に絡む男の腕を剥がそうともがく。

 揺れる灯火が男の顔に深い陰影を描き、ただそのまなざしと楽しげに口角の持ち上がったくちびるが際立つ。

 竦み上がることも許されず、逃げることもできなかった。

 殺さなければならないのだ。

 殺さなければ。

 それなのに。

 着衣を剥がされ、残る凶器の有無を確かめられた。

 傷口に爪を立てられた。

 その残酷な行為に、郁也は、気も狂わんほどに抵抗をした。

 首を振り、足をばたつかせ、男の手首に爪を立てる。

 抵抗しなければ、苦しまずに済むのだがな。

「無垢か」

 ならばどう抱こうと同じか。

 嘯くように嘲笑いながら、郁也の肌と血を味わう。

 噛みつくように口を吸われ、郁也の抵抗が一層激しいものとなった。

 見開かれた目から、滂沱と涙がながれ落ちる。

 小夜。

 小夜。

 あの時の小夜とシンクロする。

 あの時の小夜と同じだと。

 小夜を助けられなかった罪なのだと。

 苦しい。

 痛い。

 痛い。

 痛い。

 持ち上げられ開かれた足の付け根が、蹂躙される。

 杭を打ち込まれた痛みに苛まれ、悲鳴すら喉の奥に凝りつく。

 誰ひとり助けてくれる者はいないのだと、判っていながら求めずにいられない。

 その虚しさが、心をより絶望へと追いやるのだ。

「言え。誰が私を殺せとお前に命じたのだ。復讐ではないだろう」

 やわらかな掌に、武器は似合わない。

 不釣り合いだ。

 それでも、その瞳に、自分に対する憎悪はなかった。

 今は違うだろうが。

 昇紘が郁也の無垢なからだを堪能する。

 思うさま。

 苦痛の涙を味わいながら、昇紘が郁也の耳元でささやく。

「失敗した暗殺者の処遇を知っているか」

 指を切り落とされ足の腱を断たれ、目を刳り貫かれ、鼻を削がれる。

 人前に引き出されて、杭に張り付けられ、腹を裂かれる。

 そのまま内臓を引きずり出されて、放置される。

 それでも、ひとは一日ていどは生きるだろう。屈強な者ならもう少し。

 日中は猛禽が、夜間は猛獣どもが、内臓を食い荒らすだろう。

 一晩中、一日中、死ぬまで被処刑人のうめきが聞こえるだろう。

 その苦痛の後に、ようやく死が訪れる。

「おまえは堪えられるのか」

 郁也が首を横に振る。

「アルツ王か」

 やはりな。

 刹那の引き攣れに、昇紘が笑う。

「おまえの任務は失敗したのだ」

 帰れない。

 小夜を助けられない。

「小夜っ」

 郁也の目からはとめどなく涙がながれつづける。

「恋人の名か?」

 違う。

 恋人なんかにはなり得ない。

 絶対に。

 絶対に無理なのだ。

 この想いが罪だと言うことは、誰よりも知っている。

 すべてはこの想いのせいなのだ。

 小夜を愛さなければ、きっと小夜はあんな目には遭わなかった。

 遭わなければ、自分がここに来ることもなかっただろう。

 小夜。

 愛している。

「諦めるがいい」

 判っている。

 判っているんだ。

「おまえのすべては私のものになる」

 私の人形になる。

 生きた人形だ。

 それ以外におまえの生き延びる術はない。

「判っているな」

 判っている。

 けれど、判りたくなどない。

「死にたくなければ従うがいい」

 おまえは、私の人形だ。

 郁也はただ呆然と空(くう)を見上げた。

 天井から釣り下がるランプがゆらゆらと揺れて、男とそれに組敷かれている郁也の影を天幕の壁面に刻みつけた。







 星がひとつ夜空を引き裂く。

 時を同じくして、アルグリードの天幕で低いうめき声が上がった。



 歩哨が警戒する天幕の中、幾つもあるランプの火が途絶えた。

 外からの篝火だけがかすかに天幕の中を照らし出す。

 郁也は何度も挫けそうになりながら褥の上に上半身を起こした。

 気を抜けば、痛みに気が遠くなる。

 引き裂かれるような痛みだった。

 いや、引き裂かれた痛みだ。

 泣きすぎて腫れた瞼が熱く、視界が狭まる。

 目がくらむ。

 闇に沈む天幕の内部を照らすのは、外の篝火だけだった。

 隣に眠る男を、郁也は見下ろした。

 もはや、何の感情も浮かばないまなざしは、見る者がいればそれを震えさせることだろう。

 もうなにも。

 考えたくなかった。

 なにひとつ。

 喉が渇いた。

 求めるものはすぐそこに。

 郁也は立ち上がると、水差しを手に取った。

 それが目に入ったのは、だから、偶然だった。

 いや。

 ここが戦場であることを考えれば、必然というべきか。

 小さめの木造の椅子に、それは立てかけられていた。

 一振りの長刀は、しかし、郁也の手に余る重さをしている。

 その横に、まるで時代劇の脇差しのような細身の剣が立てかけてある。

 そろりと郁也はそれを取り上げた。

 ずっしりとくる重みに、腕が撓るような錯覚があった。

 どこか既視感のある重みに、郁也の視界がぶれる。

 郁也はそれを振りかぶった。



 時を同じくして、鋭い色をした銀の星が夜空を引き裂いた。







「捕まえた」

 いつか耳元にどこかで聞いたような声がする。

「その女に用はない、戻してやるといい」

 丁重にな。

 今更のことばを付け足して、男は消えたときと同じく突然姿を現した少年を抱き上げた。

「この傷を覚えている」

 肩から脇腹にかけて袈裟懸けのような傷を指先でなぞる。

 うっすらと瞼を開けた郁也は、そこに狂気を宿した男の瞳を見出して、身じろいだ。

「昇紘に抱かれてきたのだな」

 アルツの賓客。

 いや。

 アルツの凶星(まがぼし)か。

 あのあとアルツは滅びた。

 オレが滅ぼした。

 おまえは失敗したのだよ。

 オレを殺すことにな。

 目を見開いて、怯えたように自分を見上げて来る褐色の瞳に、男は満足げな笑みをたたえた。

「オレの前世は、ツェルスタスの覇王昇紘」

 おまえは、オレの生きた人形だ。

 そうだろう?

 もう逃がさない。

 覚悟しておけ。

 そう言うや、男は噛みつくようなくちづけを落とした。



 かすかに冷たい風が吹き、秋が深まることを誰にともなく告げている。

 ひとりの少年がとある男の狂気に捕まった。

 その少年の行く末に何があるのか、空にかかる未だ細いままの月だとて知りはしない。

 ただ無情に、精根尽きた少年を見下ろすのみである。


2011/10/10 09/30
2011/10/11 10:48ー17:14

*****おわり

 一番可哀想なのは小夜ちゃんという。でも魚里的に~これ、小夜ちゃんも男の方の仲間ってありだよね~とは思ってます。双子のにーちゃんの自分への執着を断ち切らせるために、実は好きになったひとと~って言っても、シチュエイション的には問題ありありなんですけどね。でも、まぁ、それもありかなぁ? そのほうが小夜ちゃんにとってはハッピーエンドだしね。さて、どうしよう。書き込まない魚里が悪いんですけど。書くと雰囲気が壊れるからね。

 そんなこんなで、ダイゴんの写真。

 魚里のベッドの上でなんつーあられもない格好を! ウツボじゃなく、ヒラメかもしれん。
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  ひまそうっすね、ダイゴさん。
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 朝日とともに。
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しかたないか
 いつもご来訪ありがとうございます♪

 休みの日には体重が二キロほど増える魚里ですxx
 いや~ストレス解消とばかりに暴飲暴食しちゃうからなぁ。反省。

 で、ちょこっと嵌っちゃった、セリエドルチェシリーズのアジアンフルーツ(だっけ?)っていうナタデココのジュース。魚里的にヒット。
 夏近いとサンクスさんの夏季限定ドリンクって、意外や魚里的にヒットがあったりします。
 だいぶ前はトロピカーナの夏の果物のジュース。あれ好きだったなぁ。

 お酒が欲しくてコンビニに行ったのだけど、お酒は失敗。いえ、美味しかったですけどね。リキュールだったので、アルコール度数が4。いくら何でも酔わないよん。それ一本だけだったしね。あ、昨夜のことです。

 で、なにげに目についた、スープご飯とかいうの。容器ごとチンして食べる名前そのもののご飯だったのですが。野菜とかたっぷりでピリ辛で、鶏の磯辺揚げもちょこっと乗ってたし~美味しかったです。はい。あ、これは、今日のお昼ご飯~。

 親指が痛くて、あまり動かしたくないというのが本音でついね。
 うん。両手の手首と親指の関節と付け根が痛いのん。こりは~仕事が仕事だからしかたないんですが。
 サポーターとテーピング用のテープと湿布を買ってきましたよ。
 で、こちらがメインの、ワンコ用の食器。
 百均でね、植木鉢の台とそれに合わせた陶器の器を二個ずつ購入。
 まだどんなワンコと相性が合うかも判ってないのに、準備だけはしている魚里です。はい。
 でもね~香川って、保健所からの保護の割合が低いらしいのよね。うん。サイトでググっても、保護ワンコたちの画像がない。
 どういう仕組みか知らないので、猫も引き取っちゃったらごめんと、祖母に断わりを入れてしまった魚里でした。いや、目が合うとね~猫に弱いからさ。魚里。譲渡会は別の部屋なのだろうか?


 えと、ポアロの『死との約束』を見ました。
 途中なんか寝てしまっちゃってた魚里ですが~。ううむ。なんでだ? 疲れてるのかなやっぱり。
 犯人は~判ったよん♪ 大体理由も判ると思う。
 ああ、これね、このトリックね~。金田一少年にもちょっと違うけどあるよね~とか思いつつvv 多分この人だなぁと思ってたら、あら、ビンゴか。
 まぁ、殺された人があまり同情に値するタイプじゃなかったのでいいですが? 自殺したナニーは、まぁ、なぁ。辛い立場だよなぁ。実行犯だし。

 今度は『雲をつかむ死』を見る予定の魚里です。

 えと、『死との約束』の中のシリアの伝説を聞いていて、昇紘×浅野で沸いた魚里は、所詮……フっ、今更vv

***ということで、仮題『闇の底』でどうだ?


 その子供を見た時、目の前が明るく開けた気がした。

 理由など判らない。

 あたりは相変わらずどうしようもないほどの闇だというのに、その子供だけがどこからか光を投げかけられているかのようにくっきりと目に見えたのだ。

 不安そうに口元に手を当てて、残る片方の手は、服の裾を握りしめている。

 顔立ちは整ってはいるが凡庸だ。取り立てて人目を引くタイプではないだろう。明るめの褐色の瞳が、怯えて揺れる。

 さらさらとした髪に触れてみたいと、やわらかそうなまろい頬に触れてみたいと、そう思った。

 子供が歩く左右が崖の細い道は、一歩足を踏み外せば、それでおしまいだ。

 子供とはいえ、死の魔物に喰らわれて、転生すら適うことはない。

 さて。

 本日最初のお客人だ。

 私は少年の前に姿を現した。

 突然の出現に、少年が足を踏み外しかける。

 それを抱え込む。

 ああ、なんてやわらかくて温かい。

「ありがとう、おじさん」

 泣き出しそうな目を見開いて私を見上げた少年に、大きく心が揺らぐのを私は感じた。

「ここ、どこ?」

 暗く長い道のりではじめて出会った存在に、縋りつくかのように少年は私の衣を握りしめている。

 それが、愛しいと、思った。

 その心の動きに、私自身目を見開かずにはいられなかった。

 なにものにも心を乱されることのない死の番人であるこの私が、このちっぽけな少年のありきたりで些細な言動に感情を見出されているのだ。

 冷酷、冷徹。あげく、残虐非道とまでそしられることのあるこの私が、である。

 さて、どう説明しようか。

 君は死にかけているのだと説明して、まだ五つほどに見える少年に通じるものか。

 このまま進めば、永い眠りの果てに転生を迎える忘却の園がある。

 しかし、この存在を消してしまうことが、私にはしのびなく思えてしかたなかった。

 心が痛む。

 私の衣を握りしめる手も、見上げてくるまなざしも、その凡庸な目鼻立ちも、総てが融け消えて、別の存在へと生まれ変わるのだ。

 とはいえ、この道を引き返せば、少年は私のことを忘れてしまうだろう。

 死の世界を長く覚えていることもない。

 ましてや、そこでたまさか出会っただけの私のことなど。

 本来は、ここで、死者の魂に通達するのだ。

 おまえは死んだのだと。

 それを告げられた者は、諦めて受け入れるか、往生際悪く泣き叫ぶか、逃げようとして足を踏み外し千尋の谷の底で口を広げている死の魔物に喰らわれるか、いずれかの行動に移るのだ。

 もちろん、上手く引き返すことができる者も、稀にではあるが存在する。

 さて、どうするか。

 困惑したままで私が少年を見下ろしていると、

「わかった! ぼく、死んだんだ」

 ぽんと手を打った。

「そうだよね、おじさん?」

 なぜだろう、澄んだ眼差しが、心に痛い。

 今までだとて、さまざまな死様をした人間やさまざまな年齢の死者を見てきたというのに。

「ああ。まだ完全に死んだわけではないが」

「じゃあ、引き返したら、生き返れる?」

 私から逸らされたまなざしを、私に向けたいと、その刹那に渇望する。

 しかし、再度向けられた瞳には、期待が宿っていた。

 そう。

 帰ることができるという期待だ。

 ここからこの少年が居なくなる。

 それを考えるだけで、とてつもない孤独が襲いかかってくる恐怖に、一度だけ全身が大きく震えた。

 ばかな。

 なにが、今更、孤独だと。

 苦笑が、こみあげた。

 なんだこれは。

 こんなちっぽけな人間の子供に、私は魂を文字通り奪われたのか。

 こんないたいけな罪のないさまをしておいて、なんて、罪深い者なのだろう。

 ほんの少し、その事実に、私は苛立った。

「この道を、引き返せるか?」

 私は、苛立ちのままに、闇を払いのけた。

 ほんの少しだけ。

 道とその周囲が詳細に判る程度に。

 少年が息を呑む音が耳を打つ。

 少年が辰場所を認識したのを確認して、私は、闇を再び下ろした。

「やだっ」

 途端、少年が、私の手を握りしめた。

「暗いよ」

 少年の全身の震えが伝わってくる。

「高いの怖い」

 一旦高さを意識すると、動けなくなる。

 しがみついてくる少年を抱き上げて、私は耳元にささやいた。

「私が連れてかえってやろうか」

 本当ならしてはならないことだった。

 それでも。

 この少年を手に入れたかった。

 今はしかたがない。

 この少年は、ただ、前に進むか後ろに戻るか、その選択肢しか許されていないのだから。

 私がこの少年を手に入れるためには、不正な提案を持ち出すよりない。

 一度は、元の世界に戻してやる。

 そう。

 私の心を奪ったその罪深い魂を。

 しかし。

 次は、ない。

 この次私と出会ったとき、少年の魂は私のものだ。

 未来永劫、私の傍らに立つ存在として、この常闇に囚われるのだ。

 泣こうが、喚こうが、それが、この罪深い魂には、相応の罰にちがいないのだから。

 私のことばに全開の笑顔でうなづいた少年を抱きかかえると、私は瞬時に少年の身体が眠る場所に出た。

「約束だ。いいな」

 この次に私と会った時こそ、既に帰る場所はないのだと。

 少年は深く考えることもなく、大きくうなづいて、私から離れて行った。

 慌ただしくひとの立ち働くその部屋の寝台の上、ただ静謐に眠る少年の瞼が、かすかに揺らぐのを確認して私は深い闇の底へと戻ったのだ。


*** こんな感じですね。三十分ほどで書いちゃったので、微妙な箇所あるかもですが、ご容赦。
 微妙と言えば、ショタxx
 ま、まぁ、キスもしてないので、セーフか。
 あ、魚里はっきり言って、ショタとかロリとか、興味はありませんので。ただ~なぜか子供になっちゃった浅野くんなのでした。
 少しでも楽しんで頂けると嬉しいです。
闇を見つめる瞳
 いつもご来訪ありがとうございます♪

 やっとこサルベージ&アップ終了です。

 例の『闇を見つめる瞳』です。
 結局名無しの小説になりました。
 誰ひとり名前が出ない。
 イクちゃん似至っては、名前をよバ得る時には伏せ字というていたらく。いえもう、ここまで徹底したら最後まで名無しでいってやれ! と、つきつめちゃったのでした。
 読んでくださる方には、読みにくさ大爆発で申し訳ありません。
 最近は読みやすさ=いい小説って風潮ですから、大きく外れまくってます。はい。
 ま、もともといい小説じゃないですから、いいか。 そう言うもんだいじゃじゃいですが。ううむ。

 いや、下の兄が恋愛と言うかふたりのぐだぐだな関係に参戦しちゃいましたので、そのせいで、まぁ、後半泥沼もいいところ。魚里こんなん男女物だと読みたくないなぁ。第一男女だと書けんでしょうしね。
 魚里がドロドロを書けるのは、男同士だから。所詮ファンタジーと開き直ってるからなんですもの。

 結局、男=昇紘は、人を殺したことはないんです。冤罪。でも、カニバリズムから言うと、有罪。
 たとえ愛情故でも、嫌われてるなら手を引きなさいよ! ってとこですよね。犬猫に嫌われる迄愛し抜くって、どんなんよ~って、思わんでもないですが。しつこ過ぎたのね、きっと。うん。

 でもって、若者=イクちゃん。相変わらずの不憫大王振りで、魚里の根性も大概悪いなぁと反省しきりですが。これでストレス発散してる所あるからなぁ。ごめん、イクちゃん。
 でも、最期近くは少し絆されかけてたよね。
 肉欲なんかいらない愛情は持ってたのにねぇ。相変わらず可愛そうな子。

 一番狂ってる下の兄。
 この人がねぇ。ネックでした。
 おじさんが実は本当に好きだった人にするかどうかで悩みまして、そうしたら、最後に火付けと人殺しをするのがイクちゃんになりかねなかったので、やめました。それはそれでひとつの話としてはありですが。魚里としたら、ナシです。
 おじさんはあくまでイクちゃんラブ(歪んでてもね)じゃないとね~。はい。
 そんなこんなで、おじさんを愛しちゃってる弟という存在に。それ故に鬱陶し過ぎておじさんに無視されているという、可哀想な人ですが。ですが、実は妻も子もおりますのよ、この人。はい。
 時代背景が微妙に昔だし田舎なので、政略結婚~です。いいとこの嬢ちゃんを貰ってるのよ。話に絡まないので出しませんでしたけどね~。外に家を構えてるってところでピンと来てた人がいるかもです。

 それでは、相変わらず救いのないどす黒い話でお目汚し失礼しました。
 少しでも楽しんで頂けましたように!
『ごちそうさま』
 いつもご来訪&拍手ありがとうございます♪

 やっと~男性用下着騒動話ができました! しかし、喜んでますが、魚里、今月一回しか更新してないしxx 反省。

 コメディで最後まで突っ走りたかったのですが、おや? シリアスかもしれない。

 な~んで下着絡みの話のはずが、キッチンネタにスライドなんだろう。謎です。

 このシーン実は、義兄が見てたという別のエピソードもアリですが、裏話ですね。不在じゃなく、仕事明けで部屋で寝てたのですよ、兄さん。イクちゃんには知りようもない裏エピソードでしかないんですがね。

 しかし、やっぱり、魚里が書くとこういう流れになるんだなぁ。
 色っぽくもエロっぽくもないxx
 大反省なのでした。

 でも、アップしたからには少しでも楽しんでもらいたい我侭な魚里なのでした~。

 少しでも楽しんでもらえますように♪
艶体詩~その後 三~
 いつもご来訪ありがとうございます♪

 『艶体詩』改め『鬼哭』完結です。思ったほど長くはなりませんでした。全部で、原稿用紙14枚くらいかな。
 内容的には、ジュネでも耽美でもBLでもなくなってしまいましたが、少しでも楽しんで頂けますように。

*****





 兵士は鬼に暴行を受けていた。

 既に虫の息の兵士の噛み破られた首から流れる血が、鬼のものをねじ込まれた箇所から流れる血が、地面を黒々と濡らしている。

 鬼の目が、きろりと男たちへと向けられた。

 口角が持ち上がってゆき、鬼の口から、兵士の血と肉片とがのぞく。

 誰かがその場で嘔吐いた。

 鬼が立ち上がる。

 ぞろりと立ち上がった瞬間、玩具のように、兵士が音たてて地面に落ちる。

 その音に、駆けつけた男たちの芯が、他愛無く砕けた。

 どんな激しい戦闘でも退くことを知らない男たちが、鬼に背中を見せたのだ。

 逃げゆく男たちの背中に、鬼の腕が、伸びる。

 次々と引き倒され、喉頸を噛み破られる。

 かろうじて抜刀して鬼に歯向かえた者は、鬼の腕の一振りで、驚愕のうちに命を落とした。

 遠く、距離を測って弓を引いた者は、天下る雷檄にその身を焼かれた。

 最初の兵士のように蹂躙されることはなかったが、どちらが幸いなのか、計れるものは存在しなかったろう。

 翌朝、その酸鼻を極める光景に、攻め込んだ敵兵までもが恐怖におののいた。

 何があったのか。

 かろうじて息のあった敵兵の最期のことばから、彼らは鬼の存在を知ったのだ。



 こうして、鬼の存在は、戦場にありながら、より以上の災厄と看做されたのである。



 戦場をさまよい歩く鬼。

 兵士たちも将軍たちも、その姿を見ただけで、戦の一時中止を命じる。

 災厄と行き会った者たちは、息をひそめてそれが通り過ぎるのを待つのだ。

 それよりほかに術はない。

 何かを探す飢えた鬼に、人風情がいくら束になっても適わないことを、彼らは本能的に知っていた。

 そう、いつしか、鬼が何かを探していることを、戦場にいるものたちは知るようになった。

 それと同じく、不幸にも蹂躙されて殺された兵士の共通点も知れ渡った。

 いずれも、十代半ばから二十代前半の褐色の髪と瞳の兵だった。

 褐色の髪の兵たちは怯えたが、戦場から逃げ帰るわけにはゆかない。それは裏切りであり、軍規に抵触する。発見次第問答無用で首を落とされるだろう。

 戦場に身を置く者であるからには、死は近しいものと覚悟を決めてはいる。

 しかし、戦で命を落とすことと、蹂躙の末の死では、あまりにも意義が違いすぎる。

 片や名誉の死であれば、残るは、矜持を砕かれての死に他ならない。

 褐色の髪のまだ若い兵たちは、日々死を他の兵たちよりもより一層近しいものと感じながら過ごすことになったのだった。





 戦はまだ続いている。

 疲弊するのは、大地と人の両方だ。

 巻き込まれる大地、そこに生きる生きとし生けるもの。

 すべての悲鳴を飲み込んで、未だ戦の終わる気配はなかった。





 月も星もない暗黒の夜、陣地を守る篝火以外に、明はない。

 風は渺々と吹き荒び、篝火を煽る。

 はためく篝火がひときわ大きくなって、歩哨を照らし出す。

 その褐色の瞳は、夜ではないものに怯えていた。

 彼の怯えるものが何なのか、知らないものはいない。それでも、彼もまた、兵士にほかならない。震える自分を叱咤して、夜の歩哨に立っている。

 今にも災厄が現れるのではないか。

 犯され喰らわれるのではないか。

 苦悶のうめきを上げながら戦場に消えた仲間たちを思いながら、自分の運命はどうなるのか、不安でならなかった。

 怯える心が災厄を招くのか。

 気がつけば目の前に災厄が立っていた。

「×××」

 ひび割れこもった声が耳にとどまる。

 炯と光る瞳が、ぬめりを帯びる。

 それは、飢えを満たす前の獣の目のようだった。

 今目の前に迫った死を実感しながら、それでも、まだ若い兵士は、震える手で刀の柄に手をやった。

「×××」

 ぞろりと頬を舐めあげられて、嫌悪に手が動く。

 しかし、刀は抜けなかった。



 味方の陣地を喰らい尽くそうとする炎に照らし出されるのは、異形の光景だった。

 ひとならざる者たちが、現れ、そうして、踊る。

 まるで、血に飽いた大地がそれらにひととは違う形を与えて生み出したかのような、異形の群れ。

 死にゆこうとする兵士の霞んだ視界の先に、圧倒的な存在として現れた存在。

 それが神なのか魔物なのか、彼にはわからなかった。

 銀の髪に赤い瞳の、男の姿をした者が、鬼を彼から引きはがしたのだ。

「×××」

と、焦がれるかのように狂った熱をはらんだ声が、彼の耳を射抜く。

 そのとき、ああ………と、彼は理解した。

 鬼が求めていたものが何なのか。

 鬼の飢えが満たされることはないだろうと。

 鬼は鬼のまま、この先永劫を過ごすに違いない………………と。

 そのまま目を閉じた兵士は、だから、知らない。

 鬼を引きはがしたものが何なのか。

 それが、鬼を見て、

『面白い』

と、つぶやいたことなど。

 貴と呼ばれる異形を統べる存在が、鬼に己の血を与えたことを。

 それを他の異形たちが羨望と飢渇のまなざしで凝視していたことを。

 それが、鬼にどんな影響を及ぼすことになるのかを。

 すべてを知ることのないまま、兵士は息を引き取った。

 味方の陣は壊滅し、その名残の炎が消える頃には、すべての異形がこの地から姿を消してゆく。

 後にはただ、くすぶる煙とあまたの屍だけが、累々と残された。



 渺々と風が吹く。



 災厄がこの地から消えたことを、まだ誰も知る者はいない。

 しかし、災厄が消えたからといって、戦が終わったわけではない。

 人間たちは、決着がつくまで、命のやり取りをつづけるのだ。

 そうして、たまさか出現した鬼の存在は、ひとから容易く忘れ去られた。

 一匹の鬼などより恐ろしい現実が、まだ終わるわけではないことを、ひとは知っていたのである。



 渺と吹く風が、嗤うかのように夜の戦場を駆け抜けて行った。







艶体詩~その後 二~
 いつもご来訪ありがとうございます♪

 いや~、なんか思ってたより話が長く……。最初は原稿用紙せいぜい10枚程度の話のつもりだったのですが。
 ん?
 微妙に越えそうです。
 とはいえ、それでも、短編ではありますが。
 SSの定義がだいたい5枚以内だったかなぁ? それは越えちゃったので、玉砕。それを越えちゃうとあの文体じゃあラリッちゃうvv 久しぶりだしね。
 なんか、ちょい脇予定の少年兵が~すぐには死ななくなりそうで、筆が止まっちゃった。
 これぞホントの脇役主人公? いや、まさか。
 そんなこんなで少しでも楽しんで頂けると御の字だったりします。

***** 2回目

 ただ、戦に慣れ親しんだ男たちがなぜたかだか一匹の鬼を恐れるのか。

 その理由だけは、敵味方の別なく、知っていた。





 まだ歳若い兵が肩を震わせる。

 風にのり聞こえてくるのは、鬼の声。

 遠くしじまを引き裂くかの、正気ではない声だった。

 それは、疲れた兵の心を怯えさせるのに充分な響きをはらんでいた。

 風もないのに篝火が、揺れる。

 闇を透かし見る少年の視界に、しかし、何の気配もない。

 あるのはただ、死肉をあさる獣の気配ばかりである。

 時折薄れては強くなる、死臭である。

 星のない夜は、奇襲にはうってつけだ。

 闇にまぎれて、敵が近づいてこないとも限らない。

 しかも、恐ろしいのは敵ばかりではない。

 なぜあんなものが。

 うろついているのだろう。

 ほんの少し前まで、あんなものは存在してはいなかった。

 敵の攻撃を受け流し、敵を討つ。

 相手が逃げれば押し、押してくれば持ちこたえるか、退き際を計る。

 もちろん、指揮官の指示に従うのは当然のことだったが、実戦となれば、自分で自分を守ることが先決となる。

 血に酔い、血気に逸り、敵を深追いしたあげくの返り討ちをどれほど見たことだろう。

 最後の戦と噂されるこれに初陣で駆り出されて、はや幾月を迎えるのか、これまで生き延びてくることができた自身に、安堵の溜め息を吐いた。

 その時だった。

「×××」

 目の前を闇が覆ったとの錯覚があった。

 鼻を射る異臭に目の前が瞬時眩む。

 乱れた前髪の間から自分を凝視する燃える石炭めいた一対。

 いつの間に。

 思考は瞬時に凝りつく。

 剣を抜くことはおろか、逃げることさえ忘れて、ただそれを見返していた。

 視界の隅で、共に寝ずの番だった男が背を返すのを捉えて、膝が砕けた。

 黒く尖った爪が頬をなぞり、大きく開かれたくちびるからこぼれ落ちた唾液が、首に巻いた布を濡らした。

「×××」

 何か聞かれたような気がして、首を横に振る。

 恐怖のあまり、涙がこぼれ落ちた。

 逃げた男が味方を連れて戻ってきた時、そこに繰り広げられていた光景は、戦慣れした男たちをも恐怖で凍りつかせるほどのものだった。



***** ということで、文体が~変わっちゃったねvv あくまでイクちゃんは出ません。だって、既に死んで浄化しちゃってるし。だから、少年兵はイクちゃんの生まれ変わりじゃないんですが~。あまりの飢餓感にがっついちゃったおじさんなのでした。どっちの意味でがっついたのかは、次にvv うん。悩んでるんだよね~。
『艶体詩』~その後~
 いつもご来訪&拍手ありがとうございます♪

 ちょこっとだけですが、涌いたので、さわりだけでも。

*****

 あれは鬼。

 夕闇にか血煙にか、赤く染まった戦の大地。

 いまだ消えやらぬ炎の煙がたなびくその場所に、灰色の影がよろぼう。

 何を探し求めるのか。

 影は四肢を地につける。

 瓦礫や骸、うめきを上げるまだ息のあるものとて横たわる、地獄絵図の只中に。

 その姿形だけを見れば、それは、ひと―――なのにちがいない。

 そう呼んでいいならば。

 ザンバラに乱れる蓬髪の間に、炯と光る一対を見て、怖じることなくそれを『人』と呼べるものがいるならば、それは、人であるのだろう。

 しかし、誰もいはしない。

 未だ日の高みにあった頃、降り注ぐ矢や矛にも傷つくことのないそれに、あまた勳をあげた兵たちも、遠巻きにしたほどのそれを、いったい、誰が、人と認めるというのだろう。

 異形、人ならざる者と、ものに動ぜぬ戦人たちもが、それを、そう呼んだ。

 あれは、鬼であるのだ―――と。

 人であるには何かが足りず、人であるには何かが過ぎる、その均衡の悪さを人は本能的に嗅ぎ分け、そうして、そう呼ぶのかもしれない。

 それが現れた戦場は、しんと静まり返る。

 まるで触れてはならぬ災厄だとでも言うかのように、息を殺して、それが過ぎるのをただ待つのだ。

 血に酔いしれた者の殺戮が日夜繰り返されるその場が、四十数年の長きにわたる戦が、ただ一匹の鬼のために、息をひそめる。

 夜ともなれば、狂笑が風にのり耳に届く。

 耳を塞ぎ目を閉じて、たいまつのみの夜を送るのだ。

 なぜ、いつ頃から戦場に鬼が現れるようになったのか。

 知る者はいない。



*****

 めちゃくちゃ短いですけどね~。さわりだけ。こんな感じですので、書き上げられるかどうか、ちと微妙。
 うん。
 最近、硬質な文章でお話書いてませんからね~。
 しかも、魚里の苦手な戦争……。
 ま、まぁ、第二次大戦じゃないからいいの。いいのか? 苦手なのはかわりませんけどね。
 そのうち『艶体詩』に繋がりますけどvv ま、鬼の正体なんかバレバレですけどね~。

 話は変わって、昨夜も涼しくて嬉しかったです。
 クーラーも扇風機もいらない夜。
 海からの東風が冷たいくらいで、浜で遊んでるひとたちの歓声やら打ち上げ花火の音やらが聞こえてきます。
 夏だなぁvv
 今更ですけどね。
月を飲む






 桜が舞う。

 ひんやりとしたはなびらが、舞い落ちる。

 空には滲む春の月。

 一面の桜は、ひとを惑わせるのだろう。

 昇紘は篝火に照らされた桜の森に佇む少年を見やった。

 緋毛氈の上、脇息に片肘をつき昇紘は酒を飲む。少年に向けられたまなざしには、常の彼を知る者が見れば、我が目を疑うに違いない、狂おしいほどの熱情が秘められていた。

 彼の心臓がやっとからだに馴染み目覚めた少年は、その負荷のゆえか記憶をすべてなくしていた。

 泣くでなくただ沈む少年を抱きしめ、幾つ夜を過ごしただろう。

 身の内にある少年の心臓が、不安にコトコトと震えていた。

 愛しい―――と、強く感じた。

 貴種の血などは関係ない。ただその存在故に愛しいと感じる。

 これは、恋だ。

 身の内深くに刻み込まれた。

 薄い色のはなびらが少年に降り注ぐ。

 まるで少年を愛撫するかのように。

「郁也っ」

 思った途端、我慢ならなくなった。

 鋭い声に、空を見上げていた郁也が昇紘を振り返る。

 杯を音たてて膳に戻した昇紘が、

「来い」

 手を差し伸べた。

 一瞬の逡巡を、昇紘は見過ごさなかった。

 怯えるのは当然だ。

 怯えながらであれ、自分の伸ばした手に従おうとする郁也に、安堵する自分を意識した。

 目の前に来た郁也を見下ろす。

 髪に、肩に、雪にも似た淡い色の花びらが散っている。それを手で払い落とし、毛氈の上、昇紘は郁也を抱きしめた。

 ぼんやりと、胸の中、ただ、昇紘の次の動きに全身で集中する郁也の横顔に、ただ、愛しさだけがこみあげる。

 杯を傾ける。

 とろりと刺激のある液体が喉を焼いた。

 酩酊にはほど遠い思考のまま、郁也の手に干した杯を握らせ、昇紘は酒を注いだ。

 新たな酒精が立ちのぼる。

 杯に落ちる朧な月。

「月を飲むか」

 酒精に落ちた月の雛形が、郁也の吐息にさざめいて見える。

 するりと、郁也の口にながれゆこうとした刹那、桜の花びらが一枚酒精の水面に落ちた。

 郁也のくちびるに張りつくそれを指先でつまみ、

「不埒なはなびらだ」

と、独り語散ちざま、昇紘は郁也のくちびるに自分のそれを重ねていた。

 一陣の風が吹き抜け、昇紘の指先からはなびらが舞い落ちる。

 もはや郁也のくちびるに触れたはなびらがどれかなど、昇紘にしてもわかるはずがなかった。


end 12:22 10/04/10

 ずいぶんと前に書いた”Mariage”とかの後の掌編です。
 これまたずいぶん前に書いた別のSSをベースに。が、差し上げ先のサイトさまが撤退されたようなので。元話はバックアップ取ってなかったので、色々と記憶をたよりに捏造。

 少しでも楽しんで頂けると嬉しいです。
プロフィール

魚里

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